前回の連載第4回では、日系企業が人事のデータ活用を進めるためのポイントについて、データ分析の世界的な権威でもある米バブソン大学のトーマス・H・ダベンポート教授が提唱する「DELTAモデル」というデータ分析を成功させるために5つの要素になぞらえて、そのうちのData(データ)、Enterprise(エンタープライズ)、Leadership(リーダーシップ)の3つの要素について考察をしてきた。

 今回は残りの2つの要素であるTargets(ターゲット)、Analysts(アナリスト)について、日系企業に何が求められるかを解説していきたい。

ポイント 其の四
Targets(ターゲット):効果的な分析投資先を見極める

 人事のデータ分析の可能性を考えると、そのパターンは数多(あまた)存在する。しかしながら限られた人的リソースや予算を考えると、その全てを実行していくことは不可能といっていい。ましてやデータアナリティクスという概念が認知されていない企業であれば、その難易度はさらに高まるだろう。

 こうした取り組みの初期段階においては、特に投資すべき分析対象の有効性を見極め慎重に選定していくことが必要となる。そのための判断基準として重要となる要素が3つ存在する。

経営問題に直結する
課題から着手する

 1つ目は、当然ながら経営や事業運営上の重要課題と連動するものが望ましい。第2回で取り上げた退職リスク分析のように、退職率という課題が人材マネジメント上の企業の最優先課題であれば、そこから分析の取り組みを始めるのは、経営層からのデータ分析に対する関心を高めるという観点からも賢い判断である。

 2つ目は、きちんと整備されているデータから始めることである。現状として存在しないデータを前提にしたデータを集めようにも、人材に関わるデータは従業員から情報を集めなくてはいけない項目などもあり、かなりの工数が必要となってくる。自社の競争優位性の構築という観点からは、自社の独自性のあるデータを創り出していくことは重要である。しかし、初期段階においては、現時点で存在するデータから始めることの方が費用的効果の観点からも有効な手立てである。