東日本大震災の発生時、全国規模で電話がつながりにくくなったなか、被災地に関する情報や復興支援活動を伝える手段として、ツイッターなどのSNSが活躍した。
地震発生直後は、災害に関する個人的なつぶやきが急増。それを戒める(「いまは個人の感想を言っている場合ではない」などの)風潮が広まった後、被災地と被災地以外をつなぐ重要なツールとして、現在に至るまで広範囲にわたって活用されている。
これを機に、首相官邸(@Kantei_Saigai)や東京電力(@OfficialTEPCO)、(特に地方の)テレビ局、ラジオ局が公式アカウントを開設、本格導入した。復興のために大いに役立ててほしい。
こうしたなか、人心定まらぬうちから、心にふとした灯りをともすツイートが印象に残った。特に素晴らしかったのが「pray for japan.jp」で取り上げられた言葉たちだ。涙した方も多いのでは。
その内容を少しだけ紹介する。
「物が散乱しているスーパーで、落ちているものを律儀に拾い、そして列に黙って並んでお金を払って買い物をする。運転再開した電車で混んでるのに妊婦に席を譲るお年寄り。この光景を見て外国人は絶句したようだ。本当だろう、この話。すごいよ日本」(@kiritansu)
「家屋に取り残され、42時間ぶりに救出された高齢の男性の映像。『チリ津波も経験してきたから、だいじょうぶです。また、再建しましょう』と笑顔で答えていた。私たちが、これから何をするかが大事」(@mameo65)
「避難所でおじいさんが『これからどうなるんだろう』と漏らしたとき、横に居た高校生ぐらいの男の子が『大丈夫、大人になったら僕らが絶対元に戻します』って背中さすって言ってたらしい。大丈夫、未来あるよ」(@nekoshima83)
「子供がお菓子を持ってレジに並んでいたけれど、順番が近くなり、レジを見て考え込み、レジ横にあった募金箱にお金を入れて、お菓子を棚に戻して出て行きました。店員さんがその子供の背中に向けてかけた『ありがとうございます』という声が、震えてました。(@matsugen)
「停電すると、それを直す人がいて、断水すると、それを直す人がいて、原発で事故が起きると、それを直しに行く人がいる。勝手に復旧してるわけじゃない。俺らが室内でマダカナーとか言っている間クソ寒い中死ぬ気で頑張ってくれてる人がいる」(@yoh22222)
「ぜんぜん眠っていないであろう旦那に、『大丈夫?無理しないで。』とメールしたら、『自衛隊なめんなよ。今無理しないでいつ無理するんだ?言葉に気をつけろ。』と返事が。彼らはタフだ。肉体も、精神も」(@yoshimicov)
*カッコ内はアカウント名。
「pray for japan.jp」には、世界各国から被災者の無事を祈るための応援メッセージが、1秒間に1回以上更新のペースで集まっている。ハッシュタグ「#prayforjapan」のつぶやきを一覧表示するだけでなく、翻訳機能を備えたAndroid用アプリ「PrayForJapan」まで登場した。
本サイトでは、心の残ったつぶやきを広く集めている。ツイッター上での連絡は @prayforjapan か @mocchicc 宛てに、メールであれば mocchicc[at]gmail.com ([at]を@に)まで連絡をして欲しい。この4月下旬には、書籍化されることも決まった。
今回、ツイッター上では、「【拡散希望】●●さん、〓〓体育館に15人孤立状態です。拡散お願いします」といったように、有名人・著名人など、フォロワー数が多い人にお願いする“拡散依頼”が見受けられた。
たしかに有名タレントやスポーツ選手など、影響力が大きい人からの発信は、多くの人の目にとまる可能性が高まる。だがそれと同時に、情報整理が十分にされず、本当に情報を手に入れたい人に届かない(届きづらい)といった問題点が挙げられた。
実際、デマの類も数多く飛び交った。「サーバ室に閉じ込められた」「人体に害をおよぼす雨が降る」「有名漫画家が多数死亡」などなど、“拡散”する前に情報を取捨選択し、真偽の見極めを図る必要に迫られた。
ただ冷静に考えると、これは今までにもずっと言われ続けてきたことではないだろうか。有史以来、なにが正しく、なにが正しくないかの判断は、国が違えど言葉が違えど、有事の際も平穏時も変わりないはずではなかろうか。「情報とは自らの力、判断で選ばなくてはならないものである」という認識を、改めて植えつけられたとも言えよう。我々は情報リテラシーを試されている。
今回の大震災は、世代の変わり目として人々の記憶に残るだろう。「prayforjapan」の言葉のような“心に残るつぶやき”は、次世代へ受け渡す警鐘ではないだろうか。
“いい話”に感動することで涙を流す。涙を流すことで、事なきを得ようとする。言い方は悪いが、涙の重さに酔いしれてしまう人も多いはずだ。私たち日本に暮らす者が今最も気をつけるべきなのは、この震災から立ち直ったとき、日本という国にそうしたメンタリティが浸透しないよう、十分に気を配ることだろう。
(筒井健二)