社会全体がその危険性を冷静に認識し、正常な政治への回帰を目指さない限り、米国の国益は大きく損なわれるだろう。それは、わが国を始め世界の主要国にもマイナスの影響をもたらす。わが国はその場の雰囲気に流されることなく、冷静に、何が正しいかを判断し、その考えをアジア各国などと共有し、国際社会の中での存在感を示していくことが必要だ。

前代未聞の
唯我独尊ぶり

 ここ一週間ほどのトランプ政権の政策運営を見ていると、今後の米国、国際社会にマイナスの影響が及ぶとの懸念が高まっている。懸念の背景には二つの要因がある。

 一つは、トランプ大統領は、「司法権の独立」という民主主義国家が大切にしてきた基本的な理念をあまり理解していないように見える点だ。大統領は何でも、好きなように決められる全能の存在であるかのように尊大にふるまっている。

 まさに唯我独尊だ。

 二つ目に、その唯我独尊の暴走を諌めるブレーンもいない点だ。そのため、政治経験がほとんどない大統領を補佐し、法律を遵守しつつ実現可能な政策を進めることができていない。この結果、トランプ政権内部でも意見の相違が出始めている。国土安全保障長官に就任したジョン・ケリー元海兵隊大将は、入国制限に関する大統領令の発令は時間をかけて進められるべきだったと非を認めた。

 このように考えると、トランプ政権の中枢が、政治的に上手くワークするとは考えにくい。合法かどうか議論の余地が大きい入国制限が、十分な議論を経ることなく発令されてしまった。

 入国制限は宗教や人種への偏見につながり、差別を助長する恐れがある。それは多様な人材の流入を妨げ、米国社会の活力、国益を奪う恐れがある。それを懸念してシアトルの連邦地方裁判所が大統領令の一時差し止めを命じた。それは客観的かつ正当な判断だ。こうした正論を米国社会全体が共有できるかが重要だ。

 この判断に対してトランプ大統領は、「いわゆる(so-called)判事の意見は、法の執行を奪うばかげたものだ」とこき下ろした。"いわゆる"という言い回しは、法律の専門家の軽視だ。

 トランプ大統領はこの個人攻撃によって、自身が司法権の独立を十分に理解していないことを米国だけでなく全世界に示したともいえる。大統領令に批判的なメディアを一方的に「フェイクだ」とまくし立てて攻撃するなど、建設的な議論すら展開できない状況が続いている。