松本さんがいた投資銀行のゴールドマン・サックスには個人向けの事業はなかった。個人から預金を募り、そのお金を融資などに回して利益を得ている銀行のバランスシートを見て、松本さんは驚いた。預金という項目が「負債」の中にあったからである。
「つまり、預金者から預かっている預金というのは、銀行からすれば負債なんです。預金者からの借金だということです。それが銀行の本質だったんです」
バランスシートの右側の負債のところに個人の預金者からのお金があり、左側にいろいろな会社への貸金があり、それが不良債権になっている。これは、果たしてどういうことなのか。
実は、後に大きな社会問題となった不良債権問題は、本当は預金者の問題、だったということである。傷ついたのは「銀行のお金」ではなく、「預金者のお金」だったのだ。なぜなら「銀行のお金」は、基本的に「預金者のお金」だからである。
銀行の貸し出しが焦げついて不良債権になったというのは、つまりは、預金者が銀行に「貸した」預金が焦げついていた、ということ。もちろん銀行も大きな損をしたが、それはすなわち、預金者の大きな損だった。預金者は、不良債権問題の当事者だった、ということである。
銀行のビジネスというのは本来、預金者から集めたお金を企業や個人に貸し出し、その利益を得ることだ。だが、銀行の預金は1000万円を上限に元金が保証されている。ということは、貸し出したお金が返ってこないような貸出先、不良債権になるような貸出先には貸してはいけない、ということである。ところが、その原則が踏みにじられる事態が現実に起こっていた。