「後味のよさ」をつくるためのひと言

齋藤 孝(さいとう・たかし)
1960年、静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程を経て、明治大学文学部教授。専攻は教育学、身体論、コミュニケーション論。テレビ、ラジオ、講演等、多方面で活躍。
著書は『声に出して読みたい日本語』(草思社)、『読書力』『コミュニケーション力』(岩波新書)、『現代語訳 学問のすすめ』(ちくま新書)、『質問力』(ちくま文庫)、『語彙力こそが教養である』(角川新書)、『雑談力が上がる話し方』『雑談力が上がる大事典』(ダイヤモンド社)など多数ある。
撮影/佐久間ナオヒト

「後味のよさ」をつくる 雑談の基本型における最後のステップは、話し終えて「別れる」、つまり雑談を切り上げる(終わらせる)というプロセスです。

 たとえば、エレベーターに乗り合わせた顔見知りと、あいさつし、会話をし、気づまりになりがちな密室空間の空気がほぐれて、降りる階に到着したら、
「じゃあ、また」(同じ階で降りるなら)
「いってらっしゃい」(相手が先に降りるなら)
「では、お先に」(自分が先に降りるなら)と、サクッと切り上げて別れる。これだけです。

 ポイントは、「別れ際のひと言をしっかり言うこと」だけ。

 話を切り上げるための理由をくどくどと述べる必要もなく、次の会話の約束も必要ありません。
 タイミングが来たら、「じゃあ」と切り上げる。
 この終わり方の潔さが、雑談ならではなのです。

 具体的な会話の例でみてみましょう。
あなた 「おはようございます」
相手 「あ、おはようございます」
あなた 「今日も寒いですね」

相手 「しかも夕方から雨らしいですよ」
あなた 「ええ、だから一応折り畳み傘、持ってます」
相手 「さすが、用意がいいですね」
あなた 「でしょ(笑)。じゃあ、また」 ← 話が途中でもサクッと切り上げる

 打ち解けたい気持ちを伝え、打ち解けようと行動し、打ち解けたら、最後は気分よく、そして潔く別れるのです。

「じゃあまた」
「ではまた」

 この2種類を、相手によって使い分け、ひと言放ったらサッとその場を立ち去る。

「じゃあまた」と別れた後、少しだけ物足りない気持ちになることがあります。

 お互いに「もう少し話していたかったな」と感じ、
 そこから「次に会ったときも声をかけよう」とか「また会いたいな」という気持ちになる。

 雑談の締めくくりは、次につながる好印象を残すチャンスでもあるのです。

「終わらせる」ができれば、
あなたの雑談力はグッと上がる

 ちなみに、私の著書『雑談力が上がる話し方』で書いた、この「サクッと終わらせる」という雑談の流儀について、「目からウロコだった」「話すハードルが下がった」「雑談に対する自分の偏見に気づいた」といった具合に、大きな反響がありました。
 それだけ、多くの人が雑談の本質を理解していなかったのだと思います。

 相手との間にある空気をちょっと動かすことで、場をほぐすのが雑談の役割。
 であれば、ダラダラと話を続けるのではなく(それはそれで、場の停滞につながることも)、サッと終わらせ、その場を立ち去ることもまた、場を動かし、いい空気をつくることにつながるというわけです。

「会話を終わらせる」ことの重要性に気づいていなかった人は、ぜひこのステップ3の「別れる」までを実践して、雑談の魅力である「後味のよさ」を堪能していただければと思います。

 次回は「雑談の内容は何がいいか」についてお話したいと思います。
(次の更新は3月1日予定です)

※この記事は書籍『会話がはずむ雑談力』の一部を、編集部にて抜粋・再構成しています。