やっぱり文句を言いに来たんだ、とヒロが冷や汗をかいていると、「こいつ、ヒロ松元の芸を、今日は最初から見せてもらった。久々に笑った」と続けた。そして、「いままで、彼のことを見損なっていました。見損なってというのは、きちんと見てこなかった、見損ねてきたということです。そのことをいま、あなたに詫びます」と言って、ヒロに深々と頭を下げた。

 その上で、さらに、「いま、ヒロには詫びました。だけど、今日ここでヒロの芸を見ることができたのは、ここまでヒロを育ててくれたみなさんのおかげです。おかげで、私は彼の芸を見ることができた。私からみなさんに礼を言います」と言葉を継ぎ、今度は客席に深々と頭を下げたのである。

「こいつをよろしく頼んだよ」と言ってステージを降りて行く談志に、万雷の拍手が鳴りやまなかった。ヒロはもちろん、大感激して嬉し泣きしたファンがたくさんいた。

「お前のことをオレは芸人という」

 ヒロの芸を見にテレビのディレクターが数多く来るが、彼らは異口同音に、「おもしろかった。しかし、絶対テレビには出せない」と言うらしい。

 そんなディレクターたちを皮肉るように、談志はヒロに言ったという。

「テレビに出ているやつを、オレはサラリーマン芸人という。テレビにクビにならないように、ということばかり考えている。おまえみたいに、庶民が言いたいことを、代わりに言ってやるのが本当の芸人だったんだ。だから、お前のことをオレは芸人という。昔はそんなやつばっかだったよ」

 私は西部邁に談志を紹介された。談志が行きつけの銀座のバーで偶然会って引き合わされたのである。

 その後、新宿の紀伊國屋ホールで開かれるヒロのライブに行ったら、談志が来ていた。それで挨拶すると、「こんな所まで来ていただいて……」と談志が頭を下げた。ヒロを弟子か身内と思っているからだろう。

「ああ見えて、ものすごく人に気をつかうんですよね。そう言ったら佐高さんが喜ぶだろうし、私も喜ぶだろうって。よくわかっているんですよ。私にまで気をつかう。私のライブに来てくれる時、いつもカミさんに『ヒロに言うな。あいつ、オレが来ているって言うとあがるからよ、言うなよ』って言って、後ろのほうで見ていたんですよ」とヒロは語っている。

(評論家 佐高 信)