>>(上)より続く
1つ目は父親の存在を無視できないことです。確かに「嫌いだから無視をする」が通用すれば話は簡単です。しかし、麻衣さんの場合、父親が麻衣さんの学費を負担しており、医大の入学金や授業料は高額ですから、父親の援助なしに今の麻衣さんはないのです。父親に対し精神的には依存していなくても、金銭的には依存しているという現実を麻衣さんは理解していたので、余計、このメールに頭を抱えてしまったわけです。
2つ目は「相談相手がいないこと」です。麻衣さんにとって最も身近にいて信頼できる人は母親です。ただ、母親とて同じ。父親(夫)の暴力に耐えかねて家出をしたのだから、今さら父親のことを思い出したくはないでしょう。だから麻衣さんは母親に気を遣って、メールのことを言い出せなかったのです。もちろん、この手の恥ずかしい、ナイーブな悩みを話せるような相手を母親以外に探すのは難しいことです。結局、麻衣さんはメールの件を自分で解決できず、麻衣さんから無視されている父親はさらに酷い内容のメールを送ってくるので体調を崩してしまった…それが無断欠席の真相でした。
そんな麻衣さんに電話をかけてきたのは山本氏でした。麻衣さんは、電話の主があまりにも予想外で、ただただ驚くばかりでした。
先生の電話サポートで
再び大学に通えるように
麻衣さんは山本氏に電話口で「相談があれば、何でも言ってほしい」と言われたそうです。確かに教師であれば、休みが続いている学生に対し、電話の1本くらい入れるのは当然かもしれません。当の山本氏も特別な気持ちや愛情を込めたわけではないでしょう。しかし、そんな「当たり前の気遣い」ですら、当時の麻衣さんの心を揺さぶるのには十分すぎました。
そして麻衣さんは電話の向こうの山本氏に対し「ありのままの自分」…嫌がらせの主が実の父親であることを、さらけ出してしまったのです。それは本来、山本氏はもちろん、誰にも知られたくない「秘密中の秘密」のはずですが、なぜ麻衣さんは「身内の恥」を山本氏に暴露してしまったのでしょうか?
「すべてをさらけ出せる人なんて、今までいませんでした」
麻衣さんは山本氏に今まで誰にも話したことのない秘密中の秘密を相談してしまったそうです。ここ数日の父親とのやり取り、父親のメールで受けた苦痛、そして両親の離婚という過去…それは本来、「大学の先生」に相談すべき悩みではないのですが、残念ながら麻衣さんの周りには本音をぶつけたり、弱音をこぼせるような相手はいませんでした。
学校内に友達がいないわけではありませんが、麻衣さんはいわゆる「一人で抱え込むタイプ」で「腹を割って話せる」友達はいなかったのです。麻衣さんの人格形成には過去の経験が色濃く影響しています。家庭内の不和が原因で両親から十分な愛情を受けることができず(=人間不信)、特に父親への嫌悪感は相当なものでした(=男性不信)。そのせいで「人を信用できない性格」が出来上がってしまったのです。