【 6 】

「梅雨」がやってきた。今年は、雨量が多い。「ガス乾燥機」の注文が相次いで、大忙しになった。圭介のそうじは続いていたが、「答え」が見つからないまま、時が過ぎていった。

 圭介が作業場のそうじを初めて2ヵ月が経った。その日の朝も、いつものように事務所でタイムカードを押してから作業場に行くと、そこに先客がいた。正平だった。手にはホウキとチリトリを持っていた。

「おい、どうしたんだよ」
「どうしたんだよ、はこっちが言いたいですよ。リーダーったら、気紛れだよとか言っていたのに、ずっと毎日そうじをしてるでしょ、もう2ヵ月になりますよ」
「いや、一度やったら、そうじをしないのが気持ち悪くなってしまって、やっているだけだよ。だから、おまえは気にしなくてもいいよ」

 正平は、ちょっと真面目な顔つきで言った。

「そんなわけにはいかんでしょ。まるで、部下への当て付けみたいじゃないですか」
「いや、そうじゃないんだよ。本当に、そうじをするのが気持ちよくなってしているだけだから、おまえたちへの当て付けとかじゃないんだよ」

「はいはい、わかってますって…。ちょっと、言ってみただけですよ。リーダーは遠慮なんてしないですもんね。ただ、オレは別にそうじは嫌いじゃないっすから。まぁ、オレの場合は今日だけの気紛れかもしれませんけどね…」

 その日は、正平の手によってほとんどそうじは終わっていて、圭介の出番はなくなっていた。仕方なく、商店街に出てみると、あちこちに空缶や菓子パンのビニール袋などのゴミが落ちているのが目に付いた。今までも、同じ光景を見ていたはずなのに、なぜ、今までは、ゴミが落ちていることに気づかなかったのだろうか?

 事務所に戻ると、「軍手」と「ゴミ袋」を手に再び通りへ出た。そして、事務所の周りの目に付く範囲のゴミを拾い始めた。

 なぜこんなことをしているのか、圭介自身にもうまく説明できなかった。だが、ただ、ただ拾った。

 その翌朝、困ったことが起きた。圭介が出社した時には、正平とともに部下の3人が、作業場のそうじをすませていたのだった。

 そして、その1週間後には、部下全員が仕事が始まる前に「作業場のそうじ」をするようになってしまった。毎日、圭介が出社する時間には、すべてが片付いていた。とうとう、圭介の出番はなくなった。実験を続けるのは、少々困難になってきた。

(その4へ続く)【全5回】

 


『なぜ「そうじ」をすると人生が変わるのか?』

 


 


 

 

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