TBS系テレビ「爆報!THEフライデー」でも紹介された『身近な人ががんになったときに役立つ知識76』。現役の国立病院の内野三菜子医師が、がんの主治医に聞きにくいようなことや、知っておいたほうがいいことなどを解説した本が話題になっています。
この連載では、その本の中から気になるところを、再編集して紹介していきます。

がんになっても仕事を続けている人は
32.5万人もいる!

内野三菜子(うちの みなこ)
東京都出身。国立国際医療研究センター国府台病院 放射線治療室長。聖マリアンナ医科大学放射線科、埼玉医科大学国際医療センター放射線腫瘍科を経て、カナダ・トロントのプリンセスマーガレット病院放射線腫瘍科にて、日本人初のクリニカルフェローとなる。並行してトロント大学オンタリオ教育研究所(大学院)医学教育学にて修士号取得。帰国後、国立国際医療研究センター病院を経て、現職。日本医学放射線学会専門医(放射線治療)、がん治療認定医

 がんになっても仕事は続けられますか?

 厚生労働省の「がんの社会学」研究グループの調査によると、がんになった会社員のうち30%が依願退職によって仕事を辞めています(図)。解雇もありますが、こちらは約4%です。そして、約半数の人が仕事を続けています。

 がんの生存率は年々伸びていて、10年相対生存率(全部位全臨床病期)は58.2%、つまり、今「がん」と診断された人のうちの約6割が、10年後にも生きているのです。部位別では、胃がんのI期は90%を超えており、乳がんや大腸がんのI期とII期でも80%を超えています。
がんは、不治の病ではなく、がんと診断されてから長く付き合っていかなければならない病気になっています。

「がん対策情報センター」の調査によると、がん患者の3人に1人は20~64歳の就労可能年齢で罹患していますが、約32.5万人の人が治療をしながら仕事も続けています(厚生労働省「平成22年国民生活基礎調査」をもとにした推計値)。

 これは、医療技術の進歩によって治療による副作用が減り、通院でも充分に治療できるようになっているから、がん治療と就労とは十分に両立可能になってきていることの表れでもあります。
 第3章の放射線治療のところでも紹介しましたが、実際、仕事をやりくりしながら放射線治療を受けにくる患者さんは、私が勤務する病院にもたくさんいます。そもそも、働いている人は正社員でも、アルバイトやパート、派遣社員であっても雇用契約が結ばれているならばすべて、がんになっても、労働基準法で働く権利が守られています。

 しかし、2015年に国立がん研究センターなど3つのがん専門病院で、がんと診断された時に就労していた患者さんを対象に行った調査では、就労している人の約4割が、治療の始まる前に辞めているという結果でした。
 離職理由としては「職場に迷惑をかける」「両立の自信なし」などを挙げる人が多かったそうです。また、自己都合でなくても、病気をきっかけに雇用が打ち切られたり契約更新されなかったりすることもよく聞きますし、そしてそれを仕方ないと患者さん本人が思ってしまう事例も少なくありません。そして、これが後悔のもとになることが多いのです。