社会の流れに逆らった
飲食店は失敗する

 つまり、社会の大きな流れに逆らって「例外」になることが、実は飲食店にとって最もやってはいけないことなのだ。

 渡邊さんは、自身のブログで、こんな「経験」を語っている。

《実は私も、今から12年前に「禁煙居酒屋」を大手居酒屋チェーン店では初めて挑戦したのですが、1年足らずで撤退、つまり、「大失敗」してしまった経験があります》(渡邊美樹オフィシャルブログ)

 渡邊さんは「禁煙にして失敗をした」と考えているようだが、それは違う。今から12年前といえば、「受動喫煙の害をどうにかしろ」と言うと、喫煙者が「禁煙ファシズムだ」と言い返すことができるような、おおらかな時代だった。分煙も今のように進んでおらず、子どもや妊婦の横でタバコをプカーなんてことも珍しくなかった。そういう風潮が主流の環境下で、渡邊さんが挑戦した「禁煙居酒屋」は、社会の大きな流れに逆らった「例外」だったのだ。

 嫌煙家というマイノリティには支持されただろうが、顧客を大きく絞り込む行為だったから、1年足らずで失敗してしまったのだ。

 今は当時とは流れがまったく違う。喫煙者の数は年々減っており、嫌煙家が社会の主流になりつつある。そんな環境にあって、小さな店が「喫煙可」を掲げるということは、短期的には儲かったとしても、中長期的には客足を限定させ、経営規模をどんどん小さくさせてしまうのだ。

 もちろん、喫煙者のマスターがいる、喫煙者のためのバーという店や、シガーバーなどの専門店はそれでいい。ただ、「食事」がメインの小さな店は、間違いなく当初の愛煙家殺到バブルの後は死屍累々だ。

 顧客の絞り込みは、まわりまわって自分たちの首を絞める、というのは実は聡明な「小さな店」の方たちは既に気づいている。たとえば、厚労省が業界団体へ向けて実施した公開ヒアリングで、飲食店業界の方たちが猛反対をするなかで、全国焼肉協会の方たちが強調したのは「平等」だった。

《全国焼肉協会は「喫煙室の有無で来客に影響すると不公平」として、より厳しい「建物内禁煙」を求めた》(朝日新聞 2016年11月16日)

 協会に加盟している店の多くは小さな町の焼肉屋である。タバコが吸えるかどうかではなく、焼肉という「食事」で不特定多数の客に訴求をしているなかで、本筋ではない喫煙環境によって客足が離れてしまうことを懸念しているのだ。

 ヒアリングに出た協会の方は、焼肉協会には小さいお店が多いので、すぐに店の外に出られるという特徴を挙げたうえで、吸いたいお客さんはそのたびに外で出た方がよほど「平等」でいい、というようなことをおっしゃっていた。まさに、この問題の本質をついた言葉ではないだろうか。

 一昨日、厚労省の「原則屋内全面禁煙」という方針に反対している自民党たばこ議連の国会議員たちは、厚労省案を「原理主義的」だと批判、「喫煙を愉しむのも、憲法で認められている幸福を追求する権利」と主張した。

 こちらの方が「禁煙で小さい店は潰れる」よりも、よほどいい攻め方だ。

 国会提出を控えて、「情報戦」が熾烈を極めていくなかで、反対派はこれまでの「負けパターン」をひっくり返すことができるのか。動向に注目したい。