世間で言われるように、生活保護の不正受給は本当に深刻化しているのか。筆者はその「定説」に疑問を持っている

生活保護の不正受給は
本当に深刻化しているのか?

 今年1月以降、小田原市の生活保護ケースワーカーたちが「保護なめんな」と書かれた揃いのジャンパーを着て業務を行っていた問題は、その後、小田原市による検討委員会の開催へとつながり、現在も社会の関心を集めている。

 しかし、1月に報道され始めた当初は、「きっかけが不正受給なら仕方ない」というネットの世論も目立った。不正受給は生活保護の一大問題と考えられている。世論が独り歩きした結果、「生活保護と言えば不正受給」と言う人までいる。

 すべての制度には、義務を逃れ権利を濫用する行為が付き物だし、美しいタテマエがあれば醜いホンネもあるものだ。だから、税制があれば脱税があり、親の一部は子どもを虐待し、小中学校ではイジメ自殺が時々発生する。「納税と言えば脱税」「親と言えば子ども虐待」「児童・生徒と言えばイジメ自殺の加害者」とは誰も言わないのに、なぜ「生活保護と言えば不正受給」なのだろうか?

 今回は、生活保護の不正受給にかかわるデータを読み解きながら、生活保護の不正受給がいったいどれだけ深刻化しているのかを検証してみよう。

 まず、2002年~2014年の年間あたりの不正受給件数を見てみよう。2002年に8204件だった不正受給件数は、2014年には約5.2倍の4万3021件となっていた。グラフを見てみると、おおむね右肩上がりとなっている。

 しかし、不正受給された生活保護費は、件数ほど増えていない。2002年から2014年にかけて増加はしているけれども、件数の増加に比べると「おとなしい」増え方だ。2002年に約54億円だった不正受給金額は、2014年には約175億円。件数が5.2倍の増加となっているのに対し、金額は3.2倍の増加だ。