百貨店最大手、三越伊勢丹ホールディングス(HD)の大西洋社長が3月末に辞任する。改革の道半ばにしてのトップ交代で、社内外は大混乱に陥っている。“ミスター百貨店”と呼ばれた業界の旗手は、なぜつまずいたのか。(「週刊ダイヤモンド」編集部 大矢博之、田島靖久)

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「本意ではなかった。しかし、構造改革に伴う問題はトップである私の責任。だから辞表にサインした」

 3月7日、突然の辞任を発表した三越伊勢丹ホールディングス(HD)の大西洋社長は、周囲にこう漏らしている。

 本意ではない──。この言葉が示すように、三越伊勢丹HDの社長交代劇は、上場企業らしからぬ混乱の中で進んでいった。

 きっかけは3月6日、朝刊の1面に「大西社長が辞任へ」との記事が掲載されたことだった。

 関係者の話を総合すれば「このタイミングでの辞任は本人は望んでいなかった」というが、報道を受け、後任の社長が未定だったにもかかわらず、大西氏の退任だけが会社側から一方的に発表される。

 午前11時、「代表取締役の異動について、明日の取締役会で決議する予定」と、社長交代について異例の“予告”。一方で、後任社長は「未定」で押し切った。

 翌7日午前、三越伊勢丹HD本社に、大西氏と石塚邦雄会長、3人の社外取締役が集まり、指名報酬委員会が開催される。ここでようやく、次期社長として杉江俊彦専務の昇格が決まった。

 その後開かれた取締役会で、大西氏は自ら辞表を提出し、石塚氏も6月の株主総会をもっての退任を表明。そして、指名報酬委の答申通りに、杉江氏の社長昇格が承認された。