そうしたトラブルがあったにもかかわらず、今年1月にも、統合に伴って店舗が併存する地域について、「集約して構造改革を進めないと立ち行かない」と一部報道機関に話してしまう。

 実は、こうした発言の裏には、経営統合後、構造改革が遅々として進まないことに対する焦りがあった。

「インバウンド特需などによって業績が良かったため、社内に危機感が乏しかった。大西氏は、好調なときにこそ改革すべきだと考えていたが、一向に進まなかった」(三越伊勢丹関係者)

 そこで、「外部にトップの思いを発信することで社内を動かす、つまり“外圧”を使って改革を進めようとした」(同)というのだ。

 しかし、そうした思いは現場に伝わらず、「社員が話せば情報漏えいになるのに、社長が話すのはいいのか」といった不満が澱のようにたまっていった。

 また、“コト消費”をにらんだ成長への布石として、エステや旅行会社を相次いで買収するなど多角化も進めていたが、これも真意が伝わらず、本業以外に手を出すことが許せない社内の一部が反発した。

 こうした事態に直面した大西氏は次第に孤立していく。擁護に回る役員がいなかったからだ。

 もともと大西氏は、旧伊勢丹社長の故武藤信一氏から引き立てられる形でトップに上り詰めた。そのため、周囲に気を使ってか、腹心を身近に置いて体制を固める道を選ばず、役員の多くは“武藤人事”のまま。大西氏の急激な改革に及び腰だったのだ。

 こうして大西氏は四面楚歌に陥り、辞表にサインせざるを得ない状況に追い込まれたというわけだ。

 退任表明後、大西氏は近しい人に「こうした状況になってしまったのは自分の責任。外に対して発信し過ぎたことは反省している」と漏らしている。

 苦戦が続く百貨店業界で、最近まで勝ち組といわれていた三越伊勢丹HD。しかし、インバウンド特需が剥げ落ちて業績が悪化、改革が急務であることは論をまたない。急進的なトップをすげ替え、改革をストップさせてしまうようでは未来はおぼつかないだろう。