同じ病気で、同じ病院に入院しても、担当医が違うと治療費はかなりばらつくようだ。治療成績が金額に比例して上がるならまだ納得できるかもしれないが、高い治療費を払ったからといって死亡率、再入院率にはほとんど影響しないというのだから頭を抱えてしまう。右肩上がりの医療費を補填しようと自己負担増や健康保険料を引き上げる前に、ぽっかり抜け落ちていた「医師個人の臨床能力」の費用対効果と価値にスポットを当てるべき時期なのかもしれない。(医学ライター 井手ゆきえ)

治療費を決定づける3要素
患者の重症度、病院、そして医師個人

 先週、米国医師会が発行する「JAMA Internal Medicine」に掲載された1本の日本人研究者による論文が、米国の医療関係者の注目を集めた。医療費高騰の背後にある治療費のばらつきには、一般に信じられてきた病院側の要因より、医師個人の診療パターンに帰する部分が大きいという結果が示されたからだ。

 治療費を決める要因は、大きく(1)患者の基礎疾患や重症度(当然、重い病気を治すにはお金がかかる)、(2)病院側の要因(MRIやCTなどの設備があるか、専門病院か否か等)、(3)医師個人の診療パターン(検査をたくさんするか、高額な薬を使うか等)の3点に分けることができる。たとえば、全く同じ患者を治療していても、大きな治療費のばらつきがあれば、その責任は(2)の病院や(3)の医師にあると考えられる。

診療パターンの違いが影響か
同じ病院で治療費に40%超の開き

 今回、ハーバード公衆衛生大学院の津川友介氏らの研究グループは、メディケア(65歳以上の高齢者がほぼ全員加入する公的医療保険制度のこと)に加盟している約5万人分(2011~2014年)のデータをもとに、内科の病気で入院した患者についてメディケアから病院および医師個人に支払われた金額(償還額)と治療成績との関係を解析した。