天然ガス価格が暴落している。価格指標の1つである英国NBPの天然ガス価格(ICE先物直近限月終値)は、6月30日から8月13日の1ヵ月半で29%も下落した。

 要因は「需要減退」である。天然ガス価格は、原油と比べて投機資金による影響を受けにくい。つまり、世界経済失速に伴う実需減退が、より顕著に表れているといえる。「電力向け、工場向けといった産業用の需要が弱い。需要減の懸念は以前からあったが、想定以上。在庫も平年以上に積み上がっている」(芥田知至・三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部主任研究員)。

 8月5日に起きたトルコのパイプライン事故や、ロシアのグルジアへの軍事介入は、本来なら供給懸念を招き、相場上昇の材料となるはずである。ところが、「問題が生じても反応がなくなるほど、市場のムードが変化してしまった」(平山順・日本先物情報ネットワーク主任研究員)のだ。

 天然ガスだけではない。商品市場は軒並み下げ相場だが、非鉄金属の価格下落も著しい。この1ヵ月の下落率は、銅15%、ニッケル13%、鉛14%、アルミ17%、亜鉛19%(いずれもLMEスポット価格)に及ぶ。

 もちろん、ヘッジファンドが手じまいに入っている影響もある。市場ではドルが下げ止まったという観測が強まり、商品市場に流れ込んでいた投機資金の流出が加速していると見られる。非鉄金属は市場規模が小さく、投機の動向の影響を受けやすい。そもそも商品市場への投機資金流入の背景には、中国をはじめとする新興国の需要増による需給逼迫観測があった。

 だが、この観測も現実と乖離しつつある。たとえば中国の6月のニッケル鉱輸入量は前年比23%減、鉛鉱は同46%減。「オリンピック需要が一巡したと見て、投機筋はいったん様子見に入っている。今後のポイントは、秋以降に中国経済が踏みとどまれるか否かだ」(平山主任研究員)。

 ニッケルは、建材、鋼板、産業用機器などの需要が多い。鉛の主用途は自動車用バッテリーだ。非鉄市場は5月頃の時点で、需給動向から商品ごとに強気相場と弱気相場の“二極化”が起きており、ニッケルや鉛などはすでに投機資金が離れて“実需相場”に近づいているとされていた。それがさらに下落したことは、世界経済、特に新興国の減速ぶりを如実に示している。
 
(『週刊ダイヤモンド』編集部 河野拓郎)