最近になって急に、官邸の政治家から東京電力の発送電分離についての発言が聞かれるようになり、菅首相も会見でそれに言及しました。しかし、どうも正しいコンテクストを政治家が理解しているか不明ですので、今週はこの電力の規制緩和について考えてみたいと思います。
発送電分離には政策的に3つの大きな意義がある
日本の電力の供給体制の特徴を一言で言えば、発送電一体と地域独占になります。電力会社が発電と送電を一体的に運営し、かつ地域内(東京電力で言えば首都圏の1都8県)の電力供給を独占的に行なってきたのです。
ちなみに、過去の規制緩和の流れの中で、海外と比較して高い電力料金の低廉化などを目的に、まず発電部門の自由化が、そして大口需要家に対する電力小売の自由化が行なわれました。その結果、今では電力量ベースで既存契約の63%が自由化の対象になっています。
ただ、新規参入者も(発送電一体の)電力会社の電力供給網を使わないといけなく、かつ託送料(供給網の利用料)も電力会社が独自に設定できるなどの理由により、実際の電力販売に占める新規参入者のシェアは3%にも満たない状況になっていました。
そうした状況の下で福島第一原発の事故が起き、被災者に対する損害賠償のスキームが決められる中で、発送電分離が声高に言われるようになりましたが、気になるのは、どうも「東電批判」「東電いじめ」の材料として官邸の政治家が発言しているように見えることです。
しかし、発送電分離は政策的に3つの大きな意義があります。一つは、結果的に発送電分離につながる資産売却を通じて、損害賠償の減資を捻出することです。最近は官邸も東電に対して火力発電所の売却を打診したようですが、こうしたアプローチは非常に正しいと言えます。
もう一つは、電力供給の安定化という観点です。必要な電力は一つの電力会社がいつでも安定的に供給するという体制は、福島原発のような大規模な事故が起きた場合に脆弱であることが明らかになりました。従って、供給の多様化や需要側の自助努力(自家発電など)が必要になりますが、そうした方向を促すには発送電分離が不可欠となります。