これは、とんでもない手術が登場したものだと感じた。なぜならば、通常の開腹手術では術者や助手が確実に臓器を確認して手術を進めることができる。そして、簡単にお互い手助けができるが、この方法では助手の力量で左右される。ましてや自分で確認する眼の部分を不慣れな助手がカメラ操作すると目隠し状態となるのだ。

 病院へ戻ったわれわれは、手術機材をそろえ、ダンボール箱を人のおなかに見立て、棒状のカメラや鉗子を穴に突っ込み、手術操作の練習を幾度となく行った。10年近く消化器外科医として鍛錬した私の手技はまったく役立たないのだ。さらに、通常、目と手で確認する三次元手術からテレビモニターの二次元画像、さらに指先の感覚を奪われた鉗子では安全確認しきれない落とし穴があった。「K先生どう思う」と問う私にK先生は「逆立ちしながら手術している感じだね」と言葉が返ってきた。

 その1ヵ月後O先生がわれわれの病院へこられ、T病院でははじめての腹腔鏡手術が実施された。幸い第一例はO先生の指導の下、成功裏に終わった。「この調子で、安全第一を心がけて手術件数を増やしてください。無理をせず、いつでも開腹手術に変更するつもりでやってください」とO先生の言葉。

 夕刻、第一例になった患者さんの病室へ私は訪れた。驚いたことに患者さんはベッドの横に座っている。「先生、おなか切らずに手術、成功できたのですね。ありがとうございます」と患者さん。「第一例になっていただいて申し訳ないです。でも切らずにできて本当に良かったです」と術者の私から感謝の言葉を申し上げた。

 開腹手術では手術後1週間も痛みで苦しむことを考えれば、翌日には退院できるということは、患者さんにとって負担は少ないのだ。しかし、手術症例が増えるとともに、困難な手術に挑戦するようになり、さまざまな合併症も多く生まれた。1992年にはその手術は保険適応され、一気に全国で広がるとともに、胆嚢以外の手術、大腸や胃、肺、さらには肝臓や脾臓まで腹腔鏡で手術が行えるようになった。

 しかしながら、全国の各病院で手術法が習得され、技能が確立するまでは、多くの合併症で外科医は患者さんとともに苦しんだ。当時、腹腔鏡手術は特殊な手術であったが、いまでは多くの疾患の標準手術として確立し、手術法が変わった“大変”を外科医たちは克服することができたといっていい。いまでは痛みの少ない普通の手術として多くの病院で実施されている。手術法も“大変”を乗り切らないで新しい価値は創造できないのかもしれない。