被災した建物、津波対策の堤防、高台など新しい街づくりにはセメント、コンクリートは欠かせない。1000万トン近い復興需要が予想される
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 セメント各社は難航する値上げ交渉に際し、強硬姿勢を取り始めた。東北を除く全国で1トン当たり1000円の値上げをのまない生コン業者に対し、6月以降の出荷停止をちらつかせている。

「適正価格を確保しなければ事業が成り立たない」。各社の幹部は値上げの理由にこう口を揃える。セメントは原燃料に廃棄物を活用しており、その処理収入でなんとか赤字を免れている状況だ。震災の影響もあって今年の需要は約4000万トンと昨年を下回る低迷が予想され、石炭の調達価格も3割近く上昇する見通し。事業環境はいっこうに好転しそうもない。

 一方の生コン業者も窮状は同じだ。公共工事や民間投資の減少で生コン需要は10年前の半分に。中小零細が多い生コン業者は協同組合を組織しセメントを調達していたが、業界が過当競争に陥るにつれその組織力も弱まっている。一部では、値上げの受け入れ準備としてゼネコンへの販売価格へ転嫁しようとする協組もあるものの、「やれるものならやってみろ」(生コンメーカー)と大半は反発している。

 というのもセメント・生コン業界での価格転嫁は一筋縄ではいかないのが現状だからだ。

 昨年夏、大阪では生コン業者による異例の大規模ストライキの結果約10%の値上げに成功したが、半年たった現在、元の価格をも下回る事態に陥っている模様。「結局、価格よりも取引量を優先し業者間で足の引っ張り合いになっている」(関係者)。

 加えて震災以降、企業にとって「供給責任」がこれまで以上に重要視されている。東北を除くとはいえ出荷停止は世間の批判も浴びかねない。

 これに対し「値上げは震災前から表明しているし、品不足による便乗ではまったくない。生産能力を2~3割削減するなど自助努力はしている」とセメント会社は反論。それどころか「1000円以上の値上げでも価格転嫁はなお足りない」と各社首脳は口を揃える。今後も毎年値上げ交渉を続けていく方針だ。

 ただ、全国のセメント生産能力にはまだ余剰感がある。生コン業者に至っては集約がさらに遅れており、需要の半減に対し生コン工場は25%減にとどまっている。淘汰が進まない限りは値上げの浸透は難しい。「共倒れしないために業界全体で一丸とならなければいつまでも改善されない」(協組関係者)。

 街づくりに欠かせないセメント、コンクリート。下期以降、1000万トン近い復興需要が予想される。業界にとって久しぶりに需要が増える見通しだが、このままでは一時の特需の下、さらなる過当競争が繰り広げられるのは間違いない。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 柳澤里佳)

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