>>(上)より続く

 姉が言う「遺留分」とは、どんな遺言が書かれていても残る相続分のことを言います。姉は直系尊属なので遺留分が認められ、今回の場合、遺産全体の8分の1。遺留分の存在は健さんも承知していたのに、この言われ様でした。

 親族である母、弟(健さん)に「法律を守らない無法者」というレッテルを貼ったり、濡れ衣(遺留分を無視して遺産を独り占めする)を着せるような物言いをするのは明らかに異常で、健さんは頭を抱えざるを得ませんでした。

「姉の暴走」という一悶着はあったにせよ、お母さんが託された遺言は今まで誰も中身に手を触れておらず、改変の疑いもないので、検認の手続は無事に終わりました。同時に姉とお母さん、健さんの間に遺恨を残したのも確かです。それまで、姉は両親の通院の送迎を自動車で嫌々ながらも行っていましたが、遺言の一件以来送迎を拒否するようになりました。健さんや健さんの妻は、自宅から片道1時間の実家に出向きお母さんの病院の送迎をするなど大きな負担を強いられました。

 さて実家の土地、建物の権利関係はどうなっているのでしょうか?どちらもお父さんがすべての所有権を有しており、お父さんの遺産は合計1570万円。

 <遺産の一覧>
 1.土地 780万円
 2.家屋 560万円
 (土地、家屋は市税務課発行が発行した平成28年の土地・建物課税明細書より)
 3.預貯金 230万円

遺留分をお金ではなく
家の権利で求めてきた姉

 お父さんが生前、姉に実家の権利を贈与しなかったのは、このような事態を案じていたのかもしれません。前述の通り、姉の遺留分は8分の1なので、健さんとお母さんは姉に対して約196万円(1570万円×8分の1)に相当する財産を渡せば帳尻が合います。

 まだ相続の手続が完了していないので、お父さん名義の預金口座からお金を引き出すことはできませんが、健さんは自腹で196万円を立て替える用意がありました。正式に「姉は実家の所有権を相続しない」という結論に達すれば、健さんは姉に対して「権利を持っていないのだから出て行ってほしい」と伝えても問題ありません。

 そこで健さんは姉と決着をつけるべく実家へ乗り込み、「遺留分の196万円を渡すから、ここに住み続けることはあきらめてほしい」と投げかけたのですが「私が196万円もらえるのは分かったけれど、お金じゃなくて家の権利を分けてよ!」と言ってきました。