塩ビは汎用品ながら、見どころのある製品だ。いまだこれに代わる安価で丈夫な製品はない。

 原料にもうまみがある。「化学製品は原料の価格変動に振り回されることが多い。しかし塩ビは価格のブレが少ない塩を主な原料の一つとしているため、他の合成樹脂より生産コストが安定しやすい」(渡部貴人・モルガン・スタンレーMUFG証券株式アナリスト)。しかもシンテックの米ルイジアナ工場は近くの塩田とパイプラインでつながっており、効率的だ。

 ルイジアナ工場では来年、塩ビのもう一つの主原料であるエチレンの一部自製化も始まる。これで安定生産や外部調達分の原料の価格交渉力に磨きがかかるはず。メリットは数百億円に上るとされる。

 明るい未来が見えるのは塩ビだけではない。例えば、半導体の主要材料の半導体シリコン(シリコンウエハー)だ。市場が沈んだときに将来を見据えて増設するという逆張りの投資で生産量世界一を誇るが、しばらく価格がさえなかった。もともと値下げ圧力が大きい上に供給過剰が長く続いたため、価格が10年弱で「6~7割低下していた」(渡部アナリスト)。

逆張り投資した半導体材料に光明 悲願の値上げ実現

 それがここにきて光明が見えてきた。スマートフォン向けなどの半導体の需要増により、主力の300ミリメートルウエハーの値上げが11年ぶりに実現したのだ。

 値上げの割合は、「現状、全体をならせば5%以下にとどまる」と渡部アナリストは慎重にみるが、それでも「売り上げで数十億円の押し上げ効果が見込める」(同)のだから馬鹿にならない。

 もっとも、営業利益全体としても過去最高益をマークし、半導体シリコン事業がその半分弱を稼いでいた07年度の利益額に回復するまでの道のりは長い。そんな中で最近、電子・機能材料事業が存在感を増している(図(3))。

 同事業はフォトレジスト(半導体の製造工程で使われる感光性の樹脂)など、高い利益率と市場シェアで利益貢献する製品を抱えている。1990年代前半に新製品の開発に注力するべく立ち上げた「Z委員会」で提案され、研究開発がスタートした製品が物になっているのだ。

 稼ぎまくる中で難点ともなるのが、ぱっとしない自己資本利益率(ROE)だ。国内の総合化学各社の自己資本比率が35%前後の中、信越のそれは驚異の80.8%(15年度)。自己資本が厚過ぎるためROEは7.5%と、営業利益率で2倍近く差をつけた住友化学や旭化成を下回る(図(4))。

 信越が最重要視しているのは利益の額であって、自社株買いなどで操作できるROEではない。豊富な資金は、堅実経営の象徴でもある。前述した約14億ドルでの米国におけるエチレン設備の建設といったあくなき設備投資も、自己資金で賄ってきた。

 さらなる高みを目指すならM&Aも選択肢となる。有利子負債を差し引いた手元資金は15年度末で8203億円もある。数千億円規模の案件も含め、既存事業と地続きの事業をターゲットに、水面下では常時検討がなされている。