6月3日(金)発表の米国雇用統計がかなり悪かったことから、米国の金融緩和が長期化し、「量的緩和第3弾(QE3)」が実施されて「米ドル安」がさらに進むとの見方が増えています。

 しかし、私はこのような見方に対して懐疑的です。

 一般的な見方どおりならば、米ドルはあの3月につけた76.25円で底打ちしておらず、「底打ちやり直し」へと向かうでしょう。

 そうではなくて私の見方が正しければ、「米ドル安・円高」は間もなく終わるということになるでしょう。

FRBが「QE3」に踏み切ることはあるのか?

 それでなくとも、このところの米国の経済指標は悪化が続いており、米国の景気に対して悲観論が強まっていました。それだけに、今回の雇用統計の結果はとどめを刺すようなものとなりました。

 ちょうど1年前も夏にかけて景気不安が拡大し、追加緩和期待が高まりました。その結果、FRB(米連邦準備制度理事会)は2010年11月に「第2次量的緩和(QE2)」に踏み切ったのです。

 今回の雇用統計の結果を受けて、昨年の「再現ドラマ」に向かうとの見方がいよいよ強くなってきたようです。つまり、FRBが現在の「QE2」を6月末に予定どおりに終了させる一方で、あらためて「第3次量的緩和(QE3)」の実施を余儀なくされるといった見方です。

 ただ、私は、昨年の「再現ドラマ」シナリオに対して、まだ少し「ひっかかり」があります。

 FRBが金融引き締めに転換したわけでもない中で、景気が減速に向かい、景気不安が拡大するということが本当にあるのか、懐疑的に見ているのです。

 景気の仕組みは単純な面があり、金融緩和を続けると回復し、引き締めを続けると減速するといった感じで、かなり人為的なものです。

 FRBはこの6月末に「QE2」を終了するとは言っていますが、引き締めへの転換には慎重姿勢を続けています。

 それにもかかわらず、景気回復が腰折れし、先行き不安が拡大するということが本当にあるのでしょうか?

昨年と今年のケースで、状況は似ているように見えるが…

 このように言うと、昨年もFRBが引き締めに転換したわけではなかったのに、夏にかけて景気不安が広がったではないかといった反論が出てくるでしょう。

 ただ、昨年の場合、夏にかけて景気不安の拡大をもたらしたのは、FRBの金融政策というよりも、ユーロ危機をはじめとする米国以外の要因が大きかったのではないでしょうか?

 その意味では、最近も、ギリシャなどの欧州の財政懸念はくすぶっていまし、春にかけての中東・アフリカの混乱を受けて、原油価格が高騰しています。さらには日本の東日本大震災もあり、米国以外の要因が、米国の景気の足を引っ張っている構図は同じとも取れなくはありません。

 ただ、次の指標を見ると、昨年と今年では大きく違っていると思われるのではないでしょうか?

 それは、金融市場の不安心理を示すとして「恐怖指数」と呼ばれる「VIX指数」です。

1年前との違いは「第2ユーロ危機」がないこと

 「資料1」で「VIX指数」をご覧ください。

 これを見ると、昨年6月にかけて、金融市場の不安感が異例なほど急拡大していたことがわかるでしょう。それをもたらしたのは、もちろんユーロ危機です。

 つまり、昨年6月にかけてのユーロ危機は欧州だけの問題にとどまらず、世界の金融市場を委縮させ、リスク回避で株価急落をもたらしたことで、米国の景気回復の腰を折るという悪影響をもたらしたということになります。

資料1

 

 その「VIX指数」ですが、今年3月に起きた日本の東日本大震災の影響などから一時上昇する場面もありましたが、それも含めて、最近にかけての推移は昨年6月頃とは比べものにならないほど落ち着いています。

 これを見るかぎり、今年に入ってからの中東・アフリカの混乱や、それに伴う原油価格の高騰、東日本大震災、欧州のソブリンリスク(国家に対する信用リスク)といったところは、それぞれは重大で深刻な問題ですが、昨年のユーロ危機ほど世界の金融市場を委縮させる要因とまではなっていなかったようです。

 このように、人為的に景気減速を図るために、FRBが金融引き締めへ転換したわけではなく、昨年のユーロ危機のように、米国以外の要因が異例の悪影響をもたらしているわけでもなさそうです。

 それにもかかわらず、自然に米国の景気回復が腰折れし、景気不安が拡大して、FRBが追加緩和期待を受けて「QE3」に追い込まれるといった昨年の「再現ドラマ」は本当にあるのでしょうか?

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