
ドナルド・トランプ米大統領の復権で、世界経済は分断の流れが加速している。日本は安全保障面では米国との関係は不可分であるものの、経済面では過度な米国依存を避ける必要がある。前日本銀行総裁の黒田東彦氏が執筆するダイヤモンド・オンラインの連載『黒田東彦の世界と経済の読み解き方』の今回のテーマは、日本とアジアの関係。「脱・米国依存」の鍵となる東南アジア経済との協力関係の強みとは?
ASEAN諸国との友好と経済関係のきっかけ
約半世紀前に発表された福田ドクトリン
元インドネシア大統領のスシロ・バンバン・ユドヨノ氏が3月、政策研究大学院大学で講演した。その際に、「『福田ドクトリン』がインドネシアを含むASEAN(東南アジア諸国連合)諸国と日本との友好と経済関係を切り開いてくれた」と述べたのには驚いた。
ユドヨノ氏は陸軍士官学校を1973年に首席で卒業したエリート軍人であり、当時の福田赳夫首相の発言を記憶されていたのかもしれないが、むしろ、2004~14年に大統領を務めた際に、日本との友好関係を実感されたのではないかと思う。
もとよりインドネシアは、ASEANの人口の約半分、GDP(国内総生産)でも約半分を占める日本の重要なパートナーである。その元大統領が、約半世紀前の福田ドクトリンを明確に認識しておられることに感銘を受けるとともに、日本の政治家が福田ドクトリンをどのくらい知っているか気になった。
戦後の日本とアジア、とりわけ東南アジア諸国との関係を再構築したのが、77年8月に福田首相がフィリピンの首都マニラで発表した福田ドクトリンである。戦前に日本が東南アジア諸国に侵攻したことを総括し、戦後に米国がベトナム戦争で敗退したことを踏まえ、以下のような東南アジア外交3原則を提示したのである。
・日本は軍事大国とならず世界の平和と繁栄に貢献する
・ASEAN各国と「心と心の触れ合う」信頼関係を構築する
・日本とASEANは対等なパートナーであり、日本はASEAN諸国の平和と繁栄に寄与する
これが、米国との同盟関係に依存しない、日本独自のアジア外交を宣言したものと認められ、東南アジア諸国との深い外交的・経済的関係が醸成されるきっかけになったのである。