自分が築いた壁を越えるための裏切り
——シカには意味があるのでしょうか?
松 今の会社名、ブックウォールに社名を変更したときからこのシカを使っています。「ブックウォール」という言葉には「本棚」というような意味があって、ブックデザインを突き詰めてやっていこう、本棚を埋めていこうという気持ちで付けました。一方、ブックウォールの字面をそのまま読めば「本の壁」になります。ブックデザインを続けていく上で、自分の前に立ちはだかる壁を越えていきたいという決意として、断崖を駆け上がるシカをアイコンにしました。
——松さん自身がシカであると。
松 僕が育ったのが奈良県ということもあるんですが(笑)。
数多くの作品を手がけさせていただいていますが、いつも前よりも良いもの、新しいものを作っていきたいと考えています。当然と言えば当然ですが、ひとつ評価されるパターンができると、「これと同じようなものを」というニーズが続くこともあります。そんな中でもラフを出す際にはまったく違う、今までやったことのないデザイン手法を取り入れたラフも織りまぜて出すように心がけています。いい意味で裏切っていきたいと。
——裏切り、ですか?
松 「依頼したのと全然違うのが混ざってるな。あれ、でもこれはちょっといいな」と思ってもらえるような。編集者の方の想像を裏切ることは、書店で本を手にとっていただく読者にとっても「これちょっと他と違うな」という印象になるんじゃないかなと思っています。もちろん、本の内容によりますが、そういうデザインをしていきたいと思っています。
先ほどお話しした「本の壁」は、自分が積み上げた過去のデザインでもあると思うんです。それを越える、駆け上がるものを作っていきたいですね。
様々なジャンルで多様な装丁を見せてくださっている松さんならではの、「壁を駆け上がる」考え方が垣間見えた気がしました。今後も私たち編集者を裏切るデザインを見せていただけるものと思います。ありがとうございました。
株式会社ブックウォール代表。
1972年生まれ。京都精華大学 ビジュアルコミュニケーション学科卒業後、
ハンドレッドデザインインクに入社。ブックデザイナーを志し2000年からフリーに。
年間に手がける点数は200冊以上。ジャンル・形態を問わず個性的な書籍の「顔」を生み出している。
Twitter: @bookwall