ダイエットにまつわる神話を打破する「カギ」とは?

―― 微生物のことはのちほど伺いますが、神話が偽りであることを証明するのに、もっとも難しかったことは何ですか?

スペクター それはまさに人が固定観念を持っているという事実です。これはビッグ・ビジネスですから、ある意味で洗脳されて事実であると思い込まされています。脂肪が悪いというのはずっと言われてきた神話ですが、それは食品メーカーや政府や政策によって広められました。誰もその固定観念を変えたいとは思いません。スーパーマーケットに行くとあらゆる種類の低脂肪製品があります。また、脂肪がどれだけ悪いか、ということを謳っているチャリティや政府のプロジェクトがあります。ほとんどの医師もそういうふうに教えられているので、そのような考え方を変えることは非常に難しい。

 ただ、今はこういう考え方を変えるのは以前よりも簡単になりつつあると思います。私がリサーチを始めてから5年の間に、状況が変わってきました。しかし、脂肪が悪いという考えはもっとも凝り固まったものでした。これはアメリカで始まり、それをビッグ・ビジネスが後を追い、そこに莫大なお金を投資し、この神話が現実であると我々を思い込ませたのです。そのために我々は大変な害を受けました。

―― この神話につけ込んでぼろ儲けをしているそのような企業は、あなたを追いかけてつぶそうとしませんか?

スペクター その可能性はありますね。私の本のように、エスタブリッシュメントに反対するような本やアイデアを出すと、それはビッグ・ビジネスと張り合うことになります。政府はその考えを変えたいとは思いません。間違ったことを認めると面目を失うからです。だから、政府は同じことを言いつづけます。何回も言っているうちに、人は信じるようになると政府は考えています。政府は間違いを認めたがりません。それは医学界や栄養学界にも言えます。科学的ではないのに、です。

―― 今まで出たほとんどの本は科学的エビデンスに基づいていないということですか?

スペクター そうです。ダイエットや食品の世界は、エビデンスに基づいた研究が少ない。神話やドグマに基づいたものがたくさんあります。たとえば、遺伝子を取ってみると、理論が先にあって、それが証明されます。あるいは証明によって否定されます。そのときに人は考えを変えます。立派な科学者は自分が間違っていたことを認め、考えを変えます。こうして科学は前進しつづけます。ですが、栄養学は異なる科学のようです。このような厳しい科学のルールにさらされていません。

―― グレー・ゾーンですね。

スペクター そうです。科学によって適切に研究されていない分野です。権力のある人が、それは本当であると言っているから、事実として受け入れるように言われているだけです。まるで信仰のようなものです。科学ではありません。誰も大規模の治験をやっていないので、信じるか信じないかのどちらかというような感じです。大規模の治験をして逆の結果が出ても人は信じないでしょう。その点で他の科学の分野と異なるところです。

―― さきほど微生物の話が出ましたが、本の中には腸内マイクロバイオーム(微生物のコミュニティ)の話が出てきます。ヘルシーなダイエットの観点からその重要性を教えてください。

スペクター 腸内マイクロバイオームはこの10年で最大の発見のひとつで、それが人間によって反応が異なるひとつの理由です。我々の体内には、細胞の数の10倍の微生物があります。微生物なしで生きることはできません。人間は微生物から進化したのです。

 微生物は食べ物を消化する役割を持っています。微生物には食べ物を分解するのに200倍の酵素を持っています。それは栄養素を個々に遊離させる役割もしています。さらに免疫システムにとっても鍵となっています。それがあるから、我々は空腹を感じたり、満腹を感じたりして、食べ物に対する反応の個人差を説明することができます。ですから微生物は非常に重要です。

 これこそが、今までのストーリーで欠けていた要素です。ダイエットに関する神話がこれほどあるのもそれがひとつの理由です。この欠けていた要素は発見されたばかり。もし、体内にある微生物が具体的にどういうことをするのか理解できて、それをできるだけ健康にする方法がわかれば、現時点で完全に誤解している問題の多くを解決することができます

(本連載は、全3回予定です。中編につづく。)