教育・受験 最前線#3

多様化する中学受験の志望校選び。中には親元を離れ、寮生活が必須となるような中高一貫校を受験する子どももいる。そこで首都圏や関西からの進学者が多い、北海道の男子中高一貫校である北嶺と函館ラ・サール、そして北海道大手塾、練成会の鼎談を掲載する。(ダイヤモンド編集部 宮原啓彰)

国公立大「医学部」合格率は全国2位
北嶺に首都圏からの入学者が増加

――首都圏や関西では近年、中学受験ブームと言われますが、北海道はどうでしょうか?

練成会グループ四谷大塚NET・三上圭本部長 首都圏や関西と違い、北海道では少子化によって総受験者数は減少傾向です。また他の地方と同じく、北海道の学力トップ層は中学受験ではなく高校受験で公立トップ校の札幌南高校や札幌北高校を目指す、という意識が非常に強い。

 ただ、その一方で、北海道でも受験生とその保護者の考え方が多様化しています。北嶺や函館ラ・サールのような寮がある学校や、首都圏、関西の学校に進学したり、中学進学後は海外大学を目指して勉強したりする子どもも増えています。

三上圭・練成会グループ四谷大塚NET本部長みかみ・けい/練成会グループ四谷大塚NET本部長。首都圏の大手進学塾を経て、練成会での四谷大塚NET部門の立ち上げに携わる。2015年より現職。また17年連続で首都圏御三家合格者を輩出する同塾で、現在も算数担当として指導する。

 いわば、二極化が進んでいる。中学受験を選択する家庭でも、小学5年生ぐらいから塾に入ればよいという家庭もある一方で、幼稚園・保育園の年長や小学1年生ぐらいから「この学校に行きたい」という明確な志望校を決めて、高いレベルの学習を求めて入塾する家庭も増えてきていますね。その意味で、地元からでも通える範囲に全国的な有名校があるというのは、北海道の利点だと思います。

――北嶺、函館ラ・サールとも、北海道を代表する中高一貫の男子校ですが、地元以外からの入学者も多数受け入れています。

北嶺中・高等学校・谷地田穣理事長兼校長 本校では現在、北海道以外の受験会場として、東京会場と名古屋会場、大阪会場、仙台会場の4つを設けています。そのうち、受験者が最も集まるのは大阪会場です。しかし、入学者で見ると、東京をはじめとする首都圏からの生徒が4分の1以上を占めています。1学年の定員120人に対し、例年30~40人が首都圏エリアからの入学者で、北海道以外のエリアでは最多です。

 大阪会場の受験者は、「前受け(本命校の受験に向けた練習のためのお試し受験)」が多いのに対し、東京会場の方は、実際の入学を見据えた受験者が多い。しかも、首都圏の受験で学力レベルの高い中高一貫校にもダブル合格していながら、あえて北嶺での「寮生活」を選択する家庭が近年、非常に増えています。

谷地田穣(北嶺中・高等学校理事長兼校長)やちだ・みのる/希望学園札幌第一高校理事長、北嶺中・高等学校理事長兼校長。1982年京都市立中学校社会科教諭、92年希望学園北嶺中・高等学校社会科教諭。学年主任、進路部長を歴任し、13年同校校長、25年より現職。現在も高校3年生の地理を担当し、24年まで寮監長も兼務した。

 1学年120人で、寮の定員は60人。このうち20人を北海道内、残る40人を北海道外から募集しています。ですので、北海道外の合格者の中には寮に入れず、逆単身赴任の形で、母と子が札幌に移り住んで通学するケースも、25年度入学者で言えば1割程度います。

 その背景としては、まず本校の進学実績です。例えば、今年の卒業生数117人のうち、東京大学合格者数は14人、医学部医学科は76人が合格しました。国公立大学医学部医学科の今年の現役合格率では東大寺学園(奈良県)に次ぐ全国2位でありながら、首都圏や関西の最難関校に比べれば合格しやすい。15年連続で医学科の現役合格率が全国ベスト10に入り、医学部に強い学校として支持されているのだろうと。

 ですが、そうした進学実績だけを見て、本校を受験されているのではなく、寮生活そのものに魅力を感じている子どもが増えてきていると強く感じますね。

函館ラ・サール学園・井上治理事長代理 やはり本校でも北海道以外の入学者数では首都圏が一番多いですね。おおむね毎年30人前後。近年の一番多い年で45人ということもありました。その首都圏と関西、名古屋の生徒を合わせると、全入学者の過半数を占める状況です。

 やはり、北嶺さんと同じく学業だけでなく、「本校の『特殊な寮』に息子を入れたい」と考えている家庭が多いです。実は、「寮の違い」は「学校の違い」よりもずっと大きいんですよ。本校の場合、中学で約7割、高校で約6割と大多数が寮生で、かつ寮がある他の中高一貫校と異なり、近隣の県ではなく首都圏や関西など全国から生徒が集う。この寮生比率の高さと全国型であることは、北嶺さんと共通しています。

井上治(函館ラ・サール学園理事長代理)いのうえ・おさむ/函館ラ・サール学園理事長代理。1996年同教頭、2001年同副校長、16年同常務理事を経て、23年より現職。

――函館ラ・サールの「特殊な寮」というのは、他校の寮と具体的にどう違うのでしょう?

井上 寮における生活環境の違いで、簡単に言えば「何人部屋か」ということ。他校における多くの寮は1~2人部屋が主流。この点、函館ラ・サールは超大部屋で、中学3年間は学年別の50人部屋。これほどの大部屋は本校だけで、学校はもちろん、例えば自衛隊にさえありません。

 実は、この50人部屋があるからこそ、函館ラ・サールを選択したという保護者が大半だと言っても過言ではありません。進学実績だけを考えれば、首都圏や関西には本校を上回る学校は多いですし。

――小学校を卒業したばかりの子どもが、中高一貫の6年もの間、親元を離れて寮生活を送るメリットはどこにあると考えますか?

次ページでは、寮生活で中高一貫校に通うメリットとともに、学力の地域格差や寮生活になじめない子どもへの対処法について聞く。