通帳を確認した李傑が、その1段目に入金1万8000ドルと記してあるのに気付いた。

「これは……?」

「隆嗣の口座から引き出して預けたんですよ。ゼロのままでは口座は開けませんからね」

 ジェイスンの説明に続けて、隆嗣が口を開いた。

「先月分のバックマージンさ。山中君たちの努力で、20コンテナの出荷を達成したからね」

 李傑は、媚びるような笑いを見せながら頭を下げた。

「山中君に調べてもらったマレーシアの設備だが、ほとんど使われていない最新式の機械なども含まれていて、程度はかなり良いらしい。追加投資に踏み切るつもりでいるんだが……資金のことは心配しなくていい。私が出すつもりだ」

 隆嗣が仕事の話を切り出す。

「しかし、操業間もないのに出資比率が大きく変わることになれば、市政府の経済貿易委員会で揉めることになるだろうな」

 李傑が難色を示すと、隆嗣はここでも鷹揚に応じた。

「出資金に算入しなくても構わないさ。隆栄木業公司へ貸し付ける、つまり融資として扱おう。商品を出荷するたびに、月々の返済金を差し引く補償貿易と考えればいいだろう。設備が整えば出荷数量の倍増が見込めるから、すぐに返済できるさ」

 その説明に、李傑は胸の内で別の計算をしていた。倍増ならば、バックマージンが月1万8000ドルから3万6000ドルになる。彼は口元が緩むのを懸命に自制した。

 ジェイスンはそんな李傑の顔を見て、自分の役目は終わったと感じた。

 欲という抗い難い術中に嵌まった李傑は、シナリオ通りに堕ちて行くだろう。それも仕方あるまい。あの立芳を罠に陥れ、隆嗣を弄んだ罪に較べれば、彼の復讐は何と優しいことか。偽名口座に手を貸すリスクなど、親友がこのシナリオのために投げ出そうとしているものに較べれば些細なことにすぎない。彼は、慣れない演技で懸命に作り笑いをしている親友へ同情の目を送った。

(つづく)