(2008年12月、上海)

 翌日、クリスマス。

 隆嗣は、コートの襟を立てて長風公園の湖の畔に佇んでいた。

 この公園も大きく様変わりしていた。水族館が建ち、子供が喜ぶ遊器具が緑を削って設けられており、立派な遊園地となっている。いい歳の男が一人で入るには恥ずかしいほどだ。

 しかし、この湖だけは、変わらずに残ってくれていた。寒風に晒されて寂しく左右へ枝を振る数本の柳も、あの時の光景のままだった。

「今日でちょうど21年だ。俺もこんな中年男になってしまったよ」

 隆嗣が黒い湖面へ向かって囁いている。

「君はずるいよ。思い出す君は、いつまでも若いままだ……。でも、もういいかな。今日、日本へ帰るよ」