「事前の会議で、150万ドルと申し合わせたじゃないですか。追加投資に厳しい目を向けていた石田さんも、それならば何とか構造用合板を売価に合わせて生産できるだろうと、何度も減価償却の試算を重ねて了承してくれたんです。粘れば150万ドルまで値切れたと、私は確信しています。
  あなたが公司の副董事長であり、投資額の5割以上を握った実質上のオーナーかもしれません。しかし、動き出した会社は従業員たちのものでもあるんです、私には彼らの生活を守る義務があります。放漫とは言いませんが、会社の投資額を軽々しく決めるのはやめて下さい」

 自分を非難する言葉を浴びせられながら、隆嗣は胸の内で再確認した。彼に任せて大丈夫だ、と。

 隆嗣の口元に浮かんだ笑みを自分への非難だと勘違いした幸一は、いったん口を閉じて水割りのグラスを手に取って気を静めた。

「私は、自分に出来る最善の手を尽くして立派な工場を残したいんだ。今回の追加投資や最初の出資金など、君たちが考える必要はない。私が道楽で提供したものと思ってくれればいい。減価償却など考慮に入れず、高品質の商品を提供し続ける強靭な会社を作り上げてくれれば、それでいいんだよ」

 淡々と語る隆嗣の言葉を理解しかねた幸一は、窺う目で問い返した。

「どういう意味ですか? 工場を残したい、って」

 風が強くなったのか、潮の香りが濃くなってきた、視線の先にある椰子の葉も揺れている。それを見た隆嗣は、記憶の中にある西湖畔の柳の枝が波打つ光景を思い出していた。

 しばらく続いた沈黙の後、不安な目で自分を見守る幸一に気付いた隆嗣は、胸ポケットから取り出したマルボロに火を点け、紫煙を勢いよく吐き出してから幸一を見据えた。

「君には打ち明けておかなければならないだろう……。これは、やらなくてはならない私の人生の清算なんだ。長い話になるが聞いてくれるかね」