燃料高騰に抗議するインドの民衆(6月28日)。各国政府も頭を痛める
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 新興国のインフレが止まらない。元凶の一つであった、原油や穀物などの商品価格は下落に転じた。だが第一生命経済研究所の西濱徹主任エコノミストは、「新興国の物価上昇は新たな局面に入った。リスクは以前より高まっている」と警告する。

 エネルギーや食品を除くコア物価の上昇が加速しているのが根拠だ。失業率低下や生産設備の高稼働率など、その要因は国内にある。

 もう一つの元凶である、新興国へのマネー流入をもたらした米国の量的緩和第2弾(QE2)は、6月末で終了した。しかし6月22日の米連邦公開市場委員会の声明では、低金利政策は当面継続、流動性も吸収しないという方針が示されている。つまり“カネがジャブジャブ”の状況は変わらない。

 余剰マネーは債券など安全資産へシフトする可能性もあるが、リターンを考えれば、なおも新興国、特に通貨へと向かう公算が大きい。

 今後のリスクは二つある。一つは、流れ込んだマネーの逆流だ。「皮肉なことに、今は米国が引き締められないことが抑えになっている。しかし、1994年のメキシコ通貨危機などの例から見ても、米国の景気が強くなり利上げに転じたとき、一部の国からの急激な資金流出が起こりうる」(吉川雅幸・メリルリンチ日本証券チーフエコノミスト)。新興国の中では、経済構造の強さにより“選別”がなされるだろう。特に、アルゼンチンやベトナムはリスクが高いと複数の市場関係者は指摘する。

 もう一つは、逆に緩和的な金融状況が長引き、さらにインフレが進行して景気に悪影響を及ぼすリスクだ。各国は利上げを続けているものの、効果は十分表れていない。金利差拡大でいっそうマネーを呼び込みかねないジレンマもある。根本的には通貨高を容認するほかないが、政治的には難しい。

 新興国の過熱をいかにソフトランディングさせるかは、今後の世界経済を左右する重大課題である。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 河野拓郎)

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