世界を変えるのは「底辺のクリエイティビティ」だ
旅で得たかけがえのないコンセプト

 僕が日本を出たのは、2009年の夏。日本を出た理由は、自らが立ち上げた事業の撤退を決めたからだった。世界有数のシェアを持つ日本企業のトップマネジメントに、中国支社の幹部候補を斡旋しようとしていたが、コンペで負けたのだ。敗因は、「優秀な日本人」を推薦しようとしたからだった。

 僕は知らなかったのだ。中国では、すでに現地の人材、すなわち、中国籍の人材を登用しなければ――つまり、現地の労働者がキャリアアップできるのだ、ということを示さなければ――次のビジネスの拡大は見込めないのだ、ということを。グローバルにインパクトを与えるビジネスを支援したい、というのは結局口ばかりで、僕は自分が挑もうとする場所の土地勘すらなかったのだ。

 だったら、アジアで1~2年過ごしてみよう。ビジネスがうまく行かなかったことをいいことに、そう決めたのだ。

 そもそも、途上国で暮らすこと自体に生活費はたいしてかからない。ならば、いっそ生活費分の出費を諦めて、稀有な機会を見つけ出す方に賭けようと思った。自分で現地に行って、「無給でもいいから入り込んでしまえ」と思った。入り込んでしまえば、そして現場で汗をかいて動き回れば、飯代や宿代くらいにはなるだろう。そう思っていた。

 始まった旅は思いがけない出会いと気づきばかりだった。

「貧困層」と呼ばれた人々に、これだけの起業家精神が眠っているのか。

 社会的課題が根深く存在するからこそ、次世代のビジネスモデル、次世代のイノベーションが必要とされていて、実際それはすでに生まれているなんて。

 そんな驚きで満ち満ちていたのだ。

 帰国後、そんな僕の驚きを、本書を監修してくれた井上英之氏は、的確な言葉で指摘してくれた。

「今までたいして知恵も創造性もないとされてきた人たちを信頼して、彼らに任せることで、世界を変えるようなアイデアが出てくる。まさに『底辺のクリエイティビティ』が生まれるその現場を見てきたんだね」

「底辺のクリエイティビティ」。僕が底辺にいる彼らに感じ、この2年の旅で得たのは、まさにこのコンセプトだった。世界を変えるアイデアは、辺境にこそ、眠っているのだ。

 

加藤徹生(かとう・てつお)
1980年大阪市生まれ。
経営コンサルタント/日中市民社会ネットワーク・フェロー。
学卒業と同時に経営コンサルタントとして独立。以来、社会起業家の育成や支援を中心に活動する。
2009年、国内だけの活動に限界を感じ、アジア各国を旅し始める。その旅の途中、カンボジアの草の根NGO、SWDCと出会い、代表チャンタ・ヌグワンの「あきらめの悪さ」に圧倒され、事業の支援を買って出る。この経験を通して、最も厳しい環境に置かれた「問題の当事者」こそが世界を変えるようなイノベーションを生み出す原動力となっているのではないか、という本書の着想を手に入れた。
twitter : @tetsuo_kato
URL : http://www.nomadlabs.jp/ (講演などのお問い合わせはこちらから)

 

【本編のご案内】
『辺境から世界を変える――ソーシャルビジネスが生み出す「村の起業家」』

「何もないからこそ、力もアイデアもわくんだ!」(井上英之氏)
先進国の課題解決のヒントは、現地で過酷な問題ー貧困や水不足、教育などーに直面している「当事者」と、彼らが創造力を発揮する仕組みを提供するため国境を越えて活躍する社会企業家たちが持っている。アジアの社会起業家の活躍を通して、新しい途上国像を浮き彫りにする1冊。

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