出世する人物も要注意!
頑張りの源泉は「自己嫌悪パワー」

 ハラッサーのようなわかりやすく迷惑な人だけでなく、驚くべきエネルギーで周囲を蹴散らして出世街道を上り詰めたり、エリートとして常人離れした業績を積み上げているような人の心にも、しばしば強烈な自己嫌悪が潜んでいます。こういう人は一見、自信満々に見えるかもしれませんが、心の奥底では自己嫌悪でいっぱい。だから、それを埋め合わせるために、どんな不条理にも耐え、常人には理解できない頑張り方をします。

 私もかつて、人並みはずれて自己嫌悪が強かったために、こういう苦しい生き方を自分に強いていました。自己嫌悪が頭をもたげるたびに、自殺衝動がわき起こるほどでした。この地獄の苦しみを和らげるために、私は「歴史に残るような業績を積み上げよう」と必死でした。

 しかし悲しいかな、こうした試みは成功しても、得られる満足感はたった一瞬なのです。

 「日経・経済図書文化賞」という経済学者なら誰もが欲しがる賞があります。私はこれを34歳で初めて書いた本で受賞しました。普通はありえない快挙です。ところが、受賞の電話を受けたときの私の反応は、一瞬ホッとした、だけでした。「これで死なずに済む」と思ったのです。なぜなら、もしも受賞できなかったら、自分の傷ついた功名心に耐えられなくて死んでしまうのではないか、とさえ思い込んでいたからです。

 しかし、その安堵感は1秒で消え去りました。そして、次の「自己嫌悪を埋め合わせるための目標」を追い求めずにはいられない心持ちになっていたのです。

 東大にも、そんな学生がたくさんいます。低い自己評価を埋め合わせるために、東大生という肩書きを手に入れるのです。しかし、東大合格の喜びは1秒で消え去りますから、次々に「立派で上等な自分」を演出してくれる何かを目標に走り続けなければなりません。

 私に言わせれば、心の傷が深い人で、知的能力の高い人が、いい大学を志し、社会に出てエリート知識人になっていきます。こういう人々が指導する組織は、自己嫌悪をベースにした邪悪さが、「正常」と見なされるようになります。