Photo by Kazuhiko Kurabe
大和ハウス工業は、高齢者住宅で介護事業に参入することを決めた。早ければ来年にも子会社の大和リビングを通じて、介護サービスや食事などを提供する高齢者住宅を運営する。大和ハウスはこれまでグループホームや有料老人ホームなど介護施設の建設では、累計約3000棟(一部医療施設を含む)と住宅メーカーではトップ級の実績がある。これらで培ったノウハウを応用する。
同社が介護事業を手がける理由は明白だ。少子高齢化と人口減により、将来的に新築住宅の需要が縮小するためだ。これまでも介護用ロボットやリチウムイオン電池などの多角化を手がけており、介護事業もその一環である。
新築の需要が減るなか、高齢者住宅の需要は増している。国土交通省は高齢者世帯の増加で、今後10年間で60万戸程度の介護施設や高齢者住宅が必要と見込む。
国交省は、今年4月に高齢者住まい法を改正し、安否確認や生活相談などのサービスを備えた「サービス付き高齢者向け住宅」を創設した。2011年度予算では、特別枠として300億円の予算を計上し、サービス付き高齢者向け住宅を3万戸整備する計画だ。
大和ハウスが自社運営するサービス付き高齢者向け住宅は、地主に建物を建ててもらい借り上げる「賃貸借方式」で展開する。地主側の投資額を低く抑えるために、1戸当たり1000万円を下回る予算で建てられる低価格の高齢者住宅を開発している。加えて、介護に関する人材教育にも力を入れる。約1000人の賃貸住宅の営業マンのうち、200~300人を高齢者住宅の専門担当者として教育中である。
計画では、向こう3年間で年間50~60棟(3000~3600戸程度)の建設、運営を目指す。 当初は介護の必要がない高齢者や要介護度の低い人向けに運営する。入居者に提供する実際の介護や医療のサービスは、提携先の介護事業者や医療法人に委託する。現在、提携先の介護事業者に人材を派遣しており、将来的には、子会社による介護サービスの提供を検討する。3年後には、介護関連事業全体(施設の建設を含む)で、売上高約800億円を目指す。
大手住宅メーカーでは、すでにミサワホームやパナホーム、住友林業、積水ハウスなどが子会社や関係会社を通じて介護施設や高齢者賃貸住宅を運営している。
大和ハウスは、樋口武男・現会長が1989年に業界に先んじて介護・高齢者市場を研究するシルバーエイジ研究所を設置するなど、介護事業への思い入れは強い。
満を持しての参入だが、ある幹部は「それなりのメリットがないと、わざわざ自宅を出て狭い賃貸住宅に入居する高齢者はいない」と自らの事業リスクを語る。
高齢者住宅運営の成功には、サービス面と人材教育の充実が不可欠だろう。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 山本猛嗣)