医師の「負担」

 ボスキルさんの診療所があるヘイロー市に隣接するベルゲン市で、家庭医を引退したアイケ・スモーク医師からも話を聞いた。同医師は「医師と患者が上下関係ではなく、対等の水平な関係になっていないと、じっくり話を聞けないし、安楽死につながらない」と強調した。

 それでも、目の前で「死」に関わるのは医師にとって大きな負担だという。

 ボスキルさんは、「安楽死の実施日の前の晩は寝られません」と打ち明ける。この10年間で平均すると毎年4人ほど安楽死に出会っている。

 断ることもできるが「私はプロですから。長年診てきた患者の意向を無視することはできません」ときっぱり言い放つ。この心構えはさすがだと思った。

 でも、中には断る家庭医も少なからずいる。そんな時には、安楽死協会に相談すると、自宅周辺の診療所や医師を紹介してくれる。あるいは、最近立ちあがった「End of Life Clinic(終末期診療所)」(本部ハーグ)に連絡すると、登録している医師たちに辿り着ける。

「End of Life Clinic」には、安楽死を実施する医師が登録されているほか、安楽死に関わる情報センターの役割も果たしている。アイケ・スモーク医師は「家庭医が勉強する場になっていて、なかなかいい組織だと思う」と話す。

 2016年に安楽死で亡くなった6091人のうち、家庭医が自宅で看取ったのは5167人と85%に達する。次いで多いのが、やはり自宅だが家庭医でなく「End of Life Clinic」の486人で8%である。残りの331人、6.4%が病院と高齢者施設を合わせた数値である。「End of Life Clinic」の割合が年々高まっており、安楽死全体の絶対量を増やしていると言えそうだ。

 世界で、安楽死を制度として認めているのは、欧州ではオランダの隣国のベルギーとルクセンブルク、それにスイス。カナダも最近加わり、米国では、ワシントン、オレゴン、カルフォルニアなど6州に及んでいる。

(福祉ジャーナリスト 浅川澄一)