既存のミュージックバーの客層は1960~80年代の音楽をリアルタイムで体験した世代が中心になりがちだが、20~60代と年齢層が幅広いのが同店の特徴だ。でも若い人はきっとハイレゾが目あてで、アナログレコードには見向きもしないのではないかと思って尋ねると、むしろ逆だと聞かされて驚いた。

「私は元々音楽好きで、CDショップやクラブによく通っていたのですが、アナログレコードしか流さないDJも多くて、そこでアナログの良さに気づかされたのです。そうした影響からか、今のアーティストの最新アルバムがLPレコードでも出るようになってきて、アナログに若い聴き手が増えつつあります。今の若者はモノよりも体験にお金を使うとよく言われます。まさにその通りで、アナログ音源をよい音で聴ける当店を訪れて未知の音源に触れ、見知らぬ人同士で音楽を通じて知り合い、言葉を交わすことに価値を見い出してくれているおかげですね」(林社長)

 アナログレコードにはデジタル音源では味わえない「温かみ」や「豊かさ」があり、独特な“太い”音が特徴だと林社長は言う。圧縮音源で曲を聴くことが当たり前になった今の若者たちには、その分、違いがより大きく感じられるに違いない。

再生装置の設備投資より、
数多くの音源を揃えることに課題

 Spinster Music Barが若者に受けている理由は理解できたのだが、前述のように21世紀版のジャズ喫茶/ジャズバーのようなハイレゾ音源と音響機器を揃えたお店は今のところごく少ない。その理由として考えられるのは、従来のジャズ喫茶がアナログレコードのコレクションとそれ用の音響機器を元に成り立っており、ファンもそれに満足していることで新たな設備投資の動機づけが働きにくいことだ。

 林社長にそれについて尋ねてみると、ハードルとして立ちはだかるのは音響機器よりも音源コレクションの整備だという。確かに機材はいったん買い揃えればそれで済むが、音源はそもそもの母数が膨大である上に、随時更新もしなければならないからだ。

 しかしせっかくハイレゾという魅力的な規格があるのだから、それを手軽に体験できる場がもっと出てきてもいいはずだ。その受け皿の一つとして考えられるのが、カラオケボックスだ。

 例えばカラオケの「JOYSOUND品川港南口店」には、「ハイレゾ音源体験ルーム」が設けられている。音楽の好みが合う仲間同士でこうしたお店を訪れてひとしきり唄って盛り上がったら、しばしマイクをテーブルに置き、ハイレゾ音源の原曲を愉しむという時間があってもいい。

 カラオケ店で原曲を流すための原盤権の問題など、超えるべきハードルはあるが、私たち利用者が音楽に触れる一番身近な場の一つがカラオケ店であることに間違いはない。それを含めて、新たなハイレゾ体験の場が広がることを期待するばかりだ。

(待兼音二郎/5時から作家塾(R))