シンガポール国立大学(NUS)リー・クアンユー公共政策大学院の「アジア地政学プログラム」は、日本や東南アジアで活躍するビジネスリーダーや官僚などが多数参加する超人気講座。同講座を主宰する田村耕太郎氏の最新刊、『君はなぜ学ばないのか?』(ダイヤモンド社)は、その人気講座のエッセンスと精神を凝縮した一冊。私たちは今、世界が大きく変わろうとする歴史的な大転換点に直面しています。激変の時代を生き抜くために不可欠な「学び」とは何か? 本連載では、この激変の時代を楽しく幸せにたくましく生き抜くためのマインドセットと、具体的な学びの内容について、同書から抜粋・編集してお届けします。
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みにくいアヒルの子とは?
私が投資にあたって常に肝に銘じているのは、
「『みにくいアヒルの子』を探せ」
ということだ。
みにくいアヒルの子を因数分解すると、次のようになる。
・みにくい=現時点では魅力的には見えない
・アヒル(に見える)=将来、美しく大きな白鳥になるようには見えない
・子=それがまだ小さいときに出会う
みにくいアヒルの子のストーリーは、生まれたときに自分だけ、姿かたちが兄弟と違い、いじめられていたが、春になるとみにくいアヒルの子は成長し、自分でも気づかないうちに美しい白鳥になっていた、というものだ。
アヒルがみにくくて白鳥が美しいという喩えではなく、「他と違って一見魅力的には見えないが、成長したら巨大な魅力あふれるものに育つ」というスタートアップのメタファーだ。
みにくさとは、
ほとんどの人が賛同しない真実のこと
多くの投資家はリスクを嫌い、一定程度大きくなったり、すでに大きくなったものに投資する傾向がある。そこからさらに大きくなるかもしれないが、この投資では投資額のリターンを何倍にもするのは難しい。
一方で、「みにくいアヒルの子」は、後で大きく魅力的になるものの、その多くはできたての頃は、魅力的に見えないものだ。
この物語の「みにくさ」の基準は、他の兄弟と比べてルックスが違う、ということだ。
その違いを「みにくさ」と見るか、「ポテンシャル」と見るかの違いである。スタートアップとしてでき立てのときに、他のスタートアップと「違い」があるということだ。
「みにくく見える」ということは、通常のビジネスから見て、どこかが普通ではない、外れているということだ。
これは、後述する「ほとんどの人が賛同しない真実」と同じことである。
ほとんどの人が賛同しないから、彼らが見過ごし、だから見つけた人は「安く買える」のだ。
皆がゴミと思っているものに
宝を見出せるか?
ここで面白いエピソードを紹介しよう。
PPIH(パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス)の安田隆夫会長がシンガポールに引っ越してこられる前後に、安田会長に何度かお会いしたことがある。
彼が創設したドン・キホーテは、今や日本国内はもちろん、東南アジアをも席巻している。2024年6月期で売り上げは、2兆円を突破した。
開業した当初の店名は「泥棒市場」。大企業の工場の裏口で廃棄されるものを安く、またはタダで仕入れて、自分の店で売っていたのだ。
安田さんは、「皆が『廃棄物』として見捨てるものを『ゴミ』と見るか、『これから人々に見出される宝』と見るかで、人生が変わりました」という。
皆がゴミと思っているものに宝を見出すのが、優れた事業家であり投資家なのだ。
「宝」とみられたものが、「ゴミ」にしか過ぎない場合もある。そういうケースがほとんどだろう。
しかし、「宝になるゴミ」に、ゴミの価格で投資できたら大成功する。みにくいアヒルの子は、最後は大きくなれた。
「宝になるゴミに見えたもの」だったから、大きくなれるのだ。
事業として大きくなれるということは、競争に勝てて、成長できているということだ。
魅力が認められて、初めてビジネスとして成長できるので、“みにくい”頃には、多くの人が、その魅力に気づいていなかったのだ。
(本稿は『君はなぜ学ばないのか?』の一部を抜粋・編集したものです)
シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院 兼任教授、カリフォルニア大学サンディエゴ校グローバル・リーダーシップ・インスティテュート フェロー、一橋ビジネススクール 客員教授(2022~2026年)。元参議院議員。早稲田大学卒業後、慶應義塾大学大学院(MBA)、デューク大学法律大学院、イェール大学大学院修了。オックスフォード大学AMPおよび東京大学EMP修了。山一證券にてM&A仲介業務に従事。米国留学を経て大阪日日新聞社社長。2002年に初当選し、2010年まで参議院議員。第一次安倍内閣で内閣府大臣政務官(経済・財政、金融、再チャレンジ、地方分権)を務めた。
2010年イェール大学フェロー、2011年ハーバード大学リサーチアソシエイト、世界で最も多くのノーベル賞受賞者(29名)を輩出したシンクタンク「ランド研究所」で当時唯一の日本人研究員となる。2012年、日本人政治家で初めてハーバードビジネススクールのケース(事例)の主人公となる。ミルケン・インスティテュート 前アジアフェロー。
2014年より、シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院兼任教授としてビジネスパーソン向け「アジア地政学プログラム」を運営し、25期にわたり600名を超えるビジネスリーダーたちが修了。2022年よりカリフォルニア大学サンディエゴ校においても「アメリカ地政学プログラム」を主宰。
CNBCコメンテーター、世界最大のインド系インターナショナルスクールGIISのアドバイザリー・ボードメンバー。米国、シンガポール、イスラエル、アフリカのベンチャーキャピタルのリミテッド・パートナーを務める。OpenAI、Scale AI、SpaceX、Neuralink等、70社以上の世界のテクノロジースタートアップに投資する個人投資家でもある。シリーズ累計91万部突破のベストセラー『頭に来てもアホとは戦うな!』など著書多数。



