野村を根底から作り直す原点となった2つの「おかしいのではないか」
私は、2012年4月に野村證券の社長に就任した。しかし同じ年の8月には、野村ホールディングス(HD)のグループCEOが辞任したのを受け、私がグループCEOも兼務することになった。当然ながら十分に気持ちの準備ができていたわけではなかった。
しかし同時に、これはチャンスであるとも思った。常道での異動であれば前任者が築いた仕組みや風土はなかなか改革しづらい。しかし不祥事を契機としてのことなので、前任者の取り組みや、それまでの常識に対してゼロベースで検証し、改革の施策を打てるからだ。
実際、HD社長就任の記者会見でも、「もう一度、会社を根底から作り直す」と所信を語った。
これには2つの意味があった。1つは信頼の回復だ。資本市場という公共財に携わっている社会的な責任は重く、単なるルールや法令の順守にとどまらず、強い社会的使命や倫理観の醸成が不可欠だった。
もう1つは、経営環境の変化に対応した新たなグローバル戦略を構築すること。アジアを日本と一体化してマザーマーケットにする。環境が変わってきたなかで、適正サイズに経営資源を再配分する必要があった。
就任から5年を経て、改めて振り返ってみると、これらの事柄は、私が若い頃から「これはおかしいのではないか」と感じ続けていたものでもあった。これらを私は徹底的に変えたいと考え、集中して取り組めた5年間だった。そして、この2つにもう1つ残された課題を付け加えるとすると「セクショナリズムの撤廃」が挙がる。