マッキンゼーの日本支社長からカーライル・ジャパンの共同代表を経て、現在早稲田大学ビジネススクール教授を務め、今年7月『経営の針路』を上梓した平野正雄氏。かたやマッキンゼーで採用担当を務めたのち、組織・人事コンサルタントとして活躍し、著書『採用基準』、『生産性』で脚光を浴びる伊賀泰代氏。共にマッキンゼーで働いた2人が公の場で初めて対談。大局的な世界経済の流れ、日本企業が生き残るために今後取るべき方策、世界に通用する人材の育て方などを、縱横に語り合ってもらった。前編では、日本企業が海外展開で失敗するのはなぜか、その根源的な理由に鋭く切り込み、今後日本企業がとるべき方策を提言しています。(構成/ライター 奥田由意、撮影/鈴木愛子)
ものづくりの成功体験が
成長の足かせに
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平野 今日は僕の著書『経営の針路』に対する、伊賀さんのフィードバックを楽しみに来ました。伊賀さんはご著書の『採用基準』や『生産性』でも、フィードバックが人を成長させると説かれています。「ディブロプメント・ニーズ」──欠点とかウィークポイントでなく、直せば伸びる余地があるところを指摘してもらうことで、人は飛躍的に成長します(笑)。
伊賀 私ごときが平野さんの本にフィードバックをするなんておこがましいのですが、マッキンゼーはフラットな組織ですからね。率直な“感想”を述べさせていただきます(笑)。
実は最初、斜め読みですまそうとしていたんです。そうしたら全然、頭に入ってこなくて焦りました(笑)。それで、2回目は心を入れ替えてちゃんと読み始めたら、バブル期以来、日本企業の経営に何が起こってきたのか、すごくよくまとまっている本だと理解できました。
大御所のコンサルタントの方が書かれた本って“So what”が明確なので、たいていは斜め読みでもメッセージが理解できます。でもこれは、そういう本ではないですよね。過去30年の間に日本企業の経営が世界の経営とどう乖離してきたのか、その歴史がとても丁寧に、かつ論理的、立体的に語られているので、飛ばし読みせずじっくり読んでほしい。学生さんとか、若い経営者の方が過去から学ぶための教科書としても、とてもいい本だと思います。
日本企業がいまグローバルな市場でリーダーシップを発揮できていない原因としてグローバル、キャピタル、デジタルへの対応を完全に間違ったからと指摘されていますが、なぜそういうことが起こったのか、その背景を指摘した部分の納得性がとても高かったです。