平野 後半では、多くの提言を打ち出していますが(笑)。

伊賀 後半も面白かったのですが、日本企業への処方箋に関しては、敢えてなのか、すごく前向きに書いてあるなという印象を持ちました。正直に言ってしまえば、私はもっと厳しいと考えているので。

平野正雄氏×伊賀泰代氏「“モノつくり信仰”が日本企業を戦略不在にした」<br />伊賀泰代・組織・人事コンサルタント
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 たとえば、日本人や日本社会の本質的な強みであるソーシャルキャピタルを企業の競争力につなげていくという部分。たしかに海外から顧客を迎える観光業ではそういうことも可能そうです。でも反対のことも起こっていますよね?

 日本人はアルバイトで働く人があまりに優秀なために、大規模なチェーン店でも業務の標準化やマニュアル化が中途半端にしか詰められていません。だから海外進出をすると、日本では難なく回るオペレーションが回らない。かたやスターバックスやマクドナルドは、英語がまともに話せない移民ばかりをアルバイトに雇っても、ちゃんと業務を回していけるように最初からオペレーションを設計していて、だから海外進出も一気に進められる。

 アルバイトであっても遅刻や無断欠勤をせず、マニュアルにない事態にも柔軟に対処できる日本はすばらしい国ですが、そういった質の高い社会に企業が甘えてしまったことが、グローバル展開には不利に働いてしまっている部分も多いと感じます。

平野 ソフトキャピタルは強みの部分もあるし、逆にそれにこだわることで、別の強みを引き出すことを阻害する要因にもなって、組織改革や人事改革、人材の扱いがなおざりになる弊害がありますね。

伊賀 平野さんの本にありましたが、アジアを消費市場としてマジメに分析するのもすごく遅れましたよね。発展途上国だって豊かにさえなれば、日本人と同じものを欲しがるはずという思い込みが強く、相手の市場をきちんと分析し、その市場に合わせた商品開発が不可欠という発想にならなかった。

 そういえば、「日本のおもてなし」に対する行き過ぎた称揚にも同じ危険を感じます。日本人がすばらしいと感じるサービスを、世界中の多様な人が全員、同じように評価するなんてありえません。それぞれのニーズを個別に分析し、地域や宗教や慣習に合わせてサービス設計や店づくりをするという当たり前のプロセスが必要なはずです。