弁護士が提示した証拠とは、C子がスマホで録音したC子とA専務の会話、2人がやりとりしたメール内容すべて、極めつきは宴会の席で同僚に録画をお願いし、嫌がるC子を抱きすくめていた場面である。弁護士は話を続けた。

「C子さんはAさんと甲社に対して、Aさんから受けたセクハラにより精神的な苦痛を味わったとして慰謝料を請求しています。慰謝料の金額が折り合わない場合は、訴訟を起こすことになります」

 弁護士から説明を受けたB社長とA専務は絶句してしまった。この時点でようやく事の重大さに気づいたのだ。

コンプラ違反の会社と取引すると
自社のイメージダウンに繋がる

 さらに会社の営業担当がこの様子を大口クライアントに話してしまった。すると、「そんな問題のある会社とは取引できない」と甲社との今後の契約を白紙にされた。それはまったく予想外の出来事だった。

 困ったB社長は、大学時代の同級生でもあるD社労士を訪ね、A専務に関するこれまでのいきさつを話し、アドバイスを受けることにした。

 「A専務だけじゃなくて、会社にまで慰謝料請求だよ。そんなのって、ありか?」
 「会社側としてはセクハラ癖のあるA専務を今まで放置同然、しかもC子さんからの相談にも応じなかった。これは職場環境配慮義務と使用者責任に問われるということだ」
 「そうか……でも、あんなに証拠がそろっているとは思わなかったよ」
 「録音や録画はスマホで簡単にできるし、メール内容が保存されていたのも、会社にとって不利だ」
 「しかし、大口クライアントに契約解除されるとは、いったいどういうことだ?」
 「コンプライアンス違反の会社と取引していると、自社のイメージダウンに繋がると判断されたと思うよ。それと社員のモラルのなさも原因かな。社内で起きた問題を外部に話した段階で、職務上、知り得た事実や取引上の情報が漏れるのを恐れたのではないかと……」
 「弱ったなあ……。大口クライアントは失うし、C子からは高額の慰謝料を請求されるし……、どうすればいいんだ?」
 「まあ落ち着けよ。まだ訴えられていないんだから解決策はあるよ」

 D社労士は、気落ちしたB社長をなだめつつ、以下のアドバイスを送った。

 (1)C子の件に関してA、他の従業員に聞き取り調査を行い、事実確認をすること
 (2)C子は弁護士を立ててきている以上、甲社としても弁護士に相談すること
 (3)社内でセクハラ防止策を講じること
 (4)従業員のモラル向上を図ること