ビジネスにおいて信頼されるのは、
「○○のため」に働く人である

会社への「忠誠心」はいらない

　だから、テクスケムの社員たちにも、機会あるごとにこう言い聞かせています。

「君たちが長年テクスケムで一生懸命に働いてくれていることには、非常に感謝しているけれども、それは私に対する忠誠心からだとか、会社に対する忠誠心からだとか、そんなふうには考えたこともないよ。“あなたのために私の人生を捧げます”などとバカなことは言わないでほしい。そんなことを言ったって、私は信じないし、そうあるべきじゃない。君たちは家族のために働いているんだ。それで十分なんだ」

　もちろん、仕事はお客様あってのものですから、サラリーマンであっても、ときには仕事を最優先にしなければならないことはあります。私のような事業家は、お客様や社員、取引先に対する責任がありますから、なおさらです。それは、ビジネスだから仕方がありません。しかし、基本的には家族を最優先するのが人間の正しい姿だと思います。

　ですから、経営者である私にとって、社員ができるだけ家族を最優先できるような環境をつくることが重要な仕事です。社員の長時間労働が常態化することは絶対に避けなければならない。非効率な働き方をしている社員には徹底的に指導をするとともに、事業そのものがうまくいっていないがために、社員に長時間労働を強いるほかないのであれば、事業そのものを改善するか、その可能性がないならば、雇用を維持したうえで新たな事業を興すのが経営者の役割だと思っています。

　一方、社員はひたすら家族のために働いてくれればいい。家族のためだと思うからこそ、厳しい局面でも踏ん張りがききますし、人の道をはずれたようなこともしない。私にとって、それだけで十二分に信頼できる存在なのです。

　だから、若い人には家族を大事にしてほしいと願っています。ご両親、配偶者、子ども……。そんな愛する家族のために頑張れば、必ず心ある人物からの信頼を勝ち取ることができると思います。そして、その人なりの人生が切り拓かれていくのです。