配偶者のほうが“better half”である
精神的に支えてくれただけではありません。
私がビジネスをするうえで、非常に大きなサポートもしてくれました。
彼女が長年にわたって築いてきた、地元の人々との広く深い付き合いに助けられたからです。私も社交的な方ではありますが、アンフェアなことをする人に対しては抵抗して、決して言いなりにはなりませんから、どうしても誰かとの関係が決裂することが避けられません。そんな私を、妻はこの50年間ずっと支えてきてくれたのです。
妻は、わけへだてなく、どんな人物とも良好な関係をつくってきました。その人脈は、私が舌を巻くほどです。たとえば、彼女が70歳になったときに、ゴルフクラブにみんなを招待してお祝いをしようと声をかけると、日本人はもとより、欧米人もインド人もマレー人も華僑もみんな駆けつけてくれて、地元の人々が総出で彼女を祝福してくれました。
ゴルフクラブには、ちょっとした派閥もあって、会うと必ず喧嘩になるようなグループもあるのですが、そのときはみんなが参加。中には、私が付き合いをやめた人物もいたほどです。こんなことは、ゴルフクラブ始まって以来のことだと聞きました。これはひとえに、彼女がこれまで延々と、誰とでも全方位でお付き合いをしてきたからです。これには、私も「立派だな」としみじみと実感しました。海外で、地元の人にあそこまで祝福される日本人は、世界中を探してもそうはいないと思います。
もちろん、彼女が生来の社交好きであるという側面もあります。しかし、ここまでしてきたのは、私をサポートするのが目的だと確信しています。というのは、実は、付き合いのある人物について、「あの人はひどいことをしている」と私に漏らすこともあるからです。しかし、私は「じゃ、どうして付き合っているんだ?」とは聞きません。「あなたのためにやってるんじゃない」と怒られるに決まっているからです。
仕事を成功させようとすれば、周囲の人々のなかに入り込んでいって、皆と仲良くやっていく努力は絶対に必要です。私のように異国の地で起業した人間であれば当然ですが、これは日本の会社に勤めるサラリーマンでも同じこと。社内の同僚や取引先、業界の人々と仲良くしなければ、絶対に長続きしません。
人間関係は、いわば仕事をするうえでのインフラのようなものなのです。それを、彼女は50年間もかけてコツコツと築き上げてきてくれました。これがなければ、私はきっとどこかで大きく躓いていたに違いありません。
だから、私は妻には頭が上がりません。
私の世代には「亭主関白」をよしとする男性が多いのですが、そんな必要はまったくないと考えています。むしろ、妻に感謝する気持ちが大切です。
英語で配偶者のことを“better half”と言います。「よき伴侶」という意味です。自分と妻は、半分半分で一体だけれども、“better half”すなわち「いい方」が妻だということです。私たち夫婦の場合は、まさにそれが当てはまります。そして、「ありがとう」という素直な気持ちで、妻と付き合うのがよい夫婦関係をつくる秘訣だと思います。
配偶者こそが私たちの最大の援軍です。
“better half”の精神が、自分を強くしてくれるのです。