いまメディアで話題の「マレーシア大富豪」をご存じだろうか? お名前は小西史彦さん。24歳のときに、無一文で日本を飛び出し、一代で、上場企業を含む約50社の一大企業グループを築き上げた人物。マレーシア国王から民間人として最高位の称号「タンスリ」を授けられた、国民的VIPである。このたび、小西さんがこれまでの人生で培ってきた「最強の人生訓」をまとめた書籍『マレーシア大富豪の教え』が刊行された。本連載では、「お金」「仕事」「信頼」「交渉」「人脈」「幸運」など、100%実話に基づく「最強の人生訓」の一部をご紹介する。
家族との絆をつくるのは「時間」ではない
若い頃、私はよくペナンヒルに登ったものです。
ペナンヒルとは、標高833mのペナン島随一の山。イギリス植民地時代に在留英国人のレクリエーションのためにケーブルカーがつくられ、山頂にはホテルやレストランがあります。レストランでビールを注文してぼんやりと、ペナン島の市街地から海峡を挟んだマレー半島までを一望する。その素晴らしい眺めを前にすると、自然と心が鎮まるのです。
妻と小さな子どもたちを連れて、遊びにきたこともいい思い出です。懐かしいですね。幼い子どもたちがキャッキャとはしゃいで遊んでいるのを、妻とふたりで眺めているのは幸せでした。日々、ビジネスで戦っていますから、幸せを実感できる家族とのひと時にずいぶんと救われたものです。
私は仕事に熱中していましたから、家族と過ごす時間は普通の人よりも少なかったかもしれません。でも、そのために家族の絆が弱まったとは思いません。普段忙しいからこそ、休日を確保するために仕事を効率的に仕上げる努力をし、仕事を任せられる部下の育成に励みました。そして、休みがとれれば、家族で旅行をしたり、海に行ったり、ペナンヒルに来たり、と一緒にいられる限られた時間を大切にするように心がけてきました。
海外出張も多かったですから、家を空けることも多かった。だから、せめて家族のことをいつも気にかけていることを伝えたいと思って、必ず家族全員におみやげを買ってきました。ただ買うのではありません。かなり神経を使って品定めをしました。
たとえば、イタリアに行ったときは、妻と娘の靴を買って帰ります。それぞれの好みやサイズを押さえておくだけでは足りません。上の娘はちょっと甲が高くて、同じサイズの靴でも入らないことがあります。いまでは笑い話ですが、これで失敗したときに娘の悲しそうな顔を見るのは辛かった。だから、それ以降はその点も踏まえて、仕事と変わらないほどの熱を込めて買います。そして、気に入ってもらえて笑顔を見せてくれるとホッとする。こちらが幸せになるのです。
これはほんの一部ですが、私は家族と一緒にいられる時間が短いという自覚があったからこそ、触れ合うときの密度を濃くするために工夫をしてきたつもりです。家族の笑顔こそが、私にとって人生における最も価値があるものだからです。家族がそれぞれに課題を抱えながらも、前向きに生きてくれている。幸せを感じながら、笑顔で生きてくれている。それ以上に嬉しいことがあるでしょうか? いや、その笑顔に支えられて、私は仕事を頑張ってくることができたのです。
もちろん、家族とできる限り多くの時間をともにできれば最高です。しかし、家族の絆を強くするのは時間だけではないと思います。それ以上に大切なのは、家族の笑顔を見るために、一生懸命に心を働かせることではないでしょうか? たとえ、ともに過ごす時間が短くても、その思いは必ず家族に伝わると思うのです。