10年以上前、週刊の就職情報誌で、巻頭の連載インタビューを担当していました。経営者、タレント、スポーツ選手など、毎週いろいろな世界の著名人に出てもらう企画でした。
この連載を、先ほどの2つのルールに当てはめてみます。
まず、この連載の「目的」は、著名人に「いい仕事をするためのヒント」と「就職のヒント」を教えてもらう、というものでした。
一方、「読者」はハッキリ決まっていませんでした。もちろん、この週刊誌の読者がそのまま読者になるわけですが、どんな人が読むのか、イメージできなかった。
そこで私は、毎回「この人に読んでほしい」という読者像を変えて書いていました。
「あの人に、この話を聞かせてあげたい」「あいつならこれが知りたいだろう」
そうやって、特定の人を思い浮かべながら素材を選び、「この言葉が刺さるはずだ」と確信して原稿を書いていたのです。
同じ雑誌に掲載されるとしても、たとえば日産自動車のカルロス・ゴーン会長と、落語家でタレントの笑福亭鶴瓶さんのインタビューがあるとすれば、興味を持つ読者は分かれるはずです。毎回、同じ読者を設定するわけにはいかない、ということです。
そこで、友人の顔を思い浮かべて「あいつはきっとゴーンさんだな」「あいつなら鶴瓶さんだろう」と考える。実際に、ゴーンさんの記事は銀行員の友人、鶴瓶さんの記事は人を笑わせるのがうまかった昔のバンド仲間に向けて書きました。
上阪徹:著
価格(本体):1500円+税
発行年月:2017年8月
判型/造本:46並製、256ページ
ISBN:978-4478102442
具体的な顔をイメージできたからこそ、素材集めを一気に効率化できたし、ピント外れの素材を選んで伝わらない文章にならずに済んだのです。そして、この連載は高い支持を得て、連載期間は6年に及びました。そして、そのインタビューは『プロ論。』というタイトルで書籍化され、シリーズ累計40万部を超えるベストセラーとなりました。
さて、ここまでの内容を読んで、次のような疑問を持つ人がいるはずです。
「読者を1人に決めてしまったら、その人以外に読まれなくなるのではないか?」
「たった1人に向けた文章は、多くの人に伝わらないのではないか?」