質の高い記事だけでも取り残される?
ユーザーの「状況」を捉えた働きかけが必要に

 しかし、コストをかけて質の高いコンテンツを配信し続ければ、それに比例して読者は増えるというほど、ことは単純ではない。宮坂氏は「読み手にとっての価値のあるコンテンツを作ることは、あくまでも市場から退場させられないための大前提」だという。

「よいコンテンツを作るには、そのコストを底支えするための顧客基盤を作る必要があります。しかし、質の良いコンテンツを作ってただ待ち受けているだけでは、顧客基盤を確立していくことは厳しくなってくるでしょう」

 ユーザーがネットを閲覧する時間は限られている。多くの媒体がクオリティの高いコンテンツを配信するようになったとしても、ユーザーの“可処分時間”が増えるわけではないので、競争は自ずと激しくなる。

「ユーザーは質の高いコンテンツには不満こそは抱かなくとも、それだけだとその媒体を継続して選択する理由にはなりにくい。一定の顧客基盤を作るには、配信側からユーザーの「状況」を捉えた働きかけてをしていくこともひとつの方法だといえるでしょう」

 媒体が能動的にユーザーに働きかけるのであれば、無作為に広くあまねくすべての人にアプローチしていくことは難しい。そのため、対象となるユーザーの絞り込みと、そのユーザーの行動パターンや嗜好を綿密に分析することがポイントになるという。

「たとえば、以前私がお手伝いさせていただいた媒体の中に、結婚情報誌『ゼクシィ』のWeb版があります。こちらも独自性のある質の高いコンテンツを配信してたにもかかわらず、Web上ではユーザーが他の媒体に分散していく傾向がありました。そこでひとつの対抗策となったのが、『ゼクシィアプリ』です。花嫁がアプリに登録するタイミングで結婚式の予定日を入力すると、アプリが結婚式までの日程を逆算して、適宜ユーザーにとって必要な情報を通知してくれる仕組みになっています」

 さらに、ゼクシィアプリでは、花嫁が見た式場やドレスなどの情報をもとに花嫁のタイプを分類し、個々の好みに合わせた内容の記事を配信しているという。アプリひとつで必要な情報を網羅できたら、ユーザーは限られた時間の中で他の媒体を見る必要がなくなる。分厚い雑誌1冊で読み手の需用を完結させていた紙の時代と、近い状態をつくることができるというわけだ。

 質の高いコンテンツとユーザーの状況を捉えたメディアからの働きかけで、ユーザーの満足を満たしていけば、顧客基盤の獲得につながる。そこで利益が増えていけば、よりコンテンツの質を高めることができ、さらにユーザーからの評価も上がる…と、いった具合に良いサイクルが生まれていく。「記事のクオリティを取るか、儲けをとるか」の二者択一ではなく、ユーザーにとって良い商品を提供することと、企業の収益を生み出すことは相関関係にあるのだ。

「顧客にとって良い商品を生み出す」という視点は他の業種にも言えることだろう。しかし、デジタルの世界では今後、メディア側からユーザーに働きかけることで「価値ある商品」に加え「価値ある体験」を提供してくことが求められているのかもしれない。