新会社の発足で管理職を放免に

 この統合新会社で、歯科材料における次世代技術・サービス開発の伝道師のような役回りを担うのが、歯学博士の岡田浩一だ。彼は、この分野では知らない人がいないほどの実力者であり、クラレ社内でも2人しかいない「専門家認定」を受けた人物でもある。

 岡山県生まれの岡田は、大学で有機化学を勉強した後、1985年に県内で最大規模の工場(倉敷事業所)を擁するクラレに入社した。配属先はメディカル事業部の研究開発室だった。研究と付くが、製品開発が主体の新規事業部門で、所帯は小さかった。希望する部署ではなかったことから、大きな戸惑いもあった。それでも、性分が真面目な岡田は、こつこつと努力を重ねて仕事を学んでいった。

 入社13年目の97年に開発部へ異動してから、歯科用の複合材料や接着剤などを扱うプレーイング・マネジャーとして、部下の育成や指導を伴う管理職の仕事が増えていった。09年には「東京本社に飛ばされた」と笑って振り返る。あえて岡田がそう表現するのは、「企画開発部のマネジメント職になって権限は増えたが、私は現場でモノに触っていたかった」からだという。彼は、管理職の仕事には面白みを感じなかったのである。

 転機が訪れたのは、11年になってからだ。すでにノリタケとの統合新会社の設立準備が動きだした中で、本社の管理職としての義務から放免された。新会社の社長補佐をしながら、新しい領域・テーマを見つける調査や企画などの対外活動で自由に動き回れるようになったのだ。12年に新会社が正式に発足してからは、精力的に各方面へ顔を出す毎日を送った。

 当然ながら、対外活動にはミッションがある。歯科材料における市場動向の変化や技術情報を入手し、開発陣にフィードバックする。その傍らで、14年には自らが開発に携わった新製品・高分子技術の理論化で博士号も取得した。

 この新製品(冒頭の写真で岡田がつまんでいる小さな部材)が、歯科治療で使う樹脂ブロックである。(1)クラレが持つナノサイズの超微粒子の表面処理技術、(2)ノリタケが持つ圧縮成型技術、(3)クラレの含浸・加熱重合技術を融合した固有の新素材で、削って使う。