英語メディアが伝える「JAPAN」なニュースをご紹介するこのコラム、今週は円高についてです。円高だから日本経済は大変だという通説というか「よくある話」のほかに、問題は円高ではなく他の部分を変えれば円高問題はなくなるという説もありました。(gooニュース 加藤祐子)

円高は病か症状か

 今の日本経済が決して健康体ではないと仮定するとして、円高はそれ自体が病気そのものなのか、それとも別の問題の症状なのか……なんていう比喩を使いたがるのは、たまたまこのところ米医療ドラマ「HOUSE」をまとめ観しているからですが、ハウス医師よろしくそこの診断を正しくしないと、治療を間違う気がします。

 日銀が10月3日に9月の企業短期経済観測調査(短観、英語ではBank of Japan Tankan Survey)は、企業の景況感が半年ぶりに大幅改善していることを示すものでした。これを受けて、3日付の英紙『フィナンシャル・タイムズ』は、「円高が日本の製造業に重圧」という見出し記事を掲載。「そりゃそうだよね」という、定説そのものの内容です。

 いわく、記録的な円高のせいでトヨタ自動車は日本で車を作って輸出しても利益を出せなくなってしまい、昨年の同社は日本国内で3620億円の営業赤字を計上したと。そしてマツダも日産も、「国内生産にどう影響するか明言しないまま、中南米に工場を新設すると発表」していると記事は指摘。影響を受けているのはもちろん自動車業界だけでなく、「止まらない円高と世界経済の失速は、世界第3位の経済大国の景気見通しを圧迫している」と書いています。

 日本の製造業は震災と津波の影響からは「予測よりはるかに早く立ち直った」けれども、「日本経済の輸出依存度は高いままなので、今のアメリカやユーロ圏を脅かす諸問題に、日本も影響を受けやすい。そしてアメリカやユーロ圏の問題は円高によってさらに悪化している」とも記事は指摘。「世界経済はいま危険な状態にあり、日本経済ももちろん影響をうけかねない。もしアメリカが景気後退に陥れば、日本もおそらく後に続くだろう」というエコノミストの見方も紹介しています。

 さらに、ロンドンのコンサルティング会社キャピタルエコノミクスは調査報告で、日本が「景気後退に戻ってしまわないようにするには、景気刺激策を追加するしかないと考える」と指摘しているとのこと。

 同じく短観を受けて英BBCは、大震災で日本の製造業は打撃を受けたが、サプライチェーンが戻りインフラが再建されるに伴い、工場の生産量は上がっていると説明。ただし、欧州の債務危機やアメリカの経済問題の影響で数カ月後の見通しが不透明なため、先行き見通しはそれほど改善していないし、欧米経済への懸念から円高が止まらないため、輸出依存型の日本の製造業にとってよろしくない状態だと解説。

 言うなれば、フィナンシャル・タイムズもBBCも、きわめてスタンダードな正統派の解説をしているわけです。日本は当面、円高を何とかしなくてはならないと。

 これに対して10日付のロイター通信記事が、別の角度から分析していました。「日本にとって、円高を抑えるより円高と共存する方が簡単だ(Easier for Japan to live with strong yen than tame it)」という見出し記事です。

 トマシュ・ヤノウスキ記者は、円高を抑制しようとしても効果があると思っている日本人は少ないと切り出しています。「世界第3位の経済大国が今ほど輸出に依存しなくなり、円が投資家にとってのセイフヘイブンでなくなるように」する方法は、いくつか思いつくが、いずれも効果が出るには時間がかかるし、実施するには(日本には存在しない)政治的な合意が必要だと書きます。だから誰もが、相変わらずおなじみの行動しかとらないのだと。

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