佐藤智恵氏

クレイグ 現在の課題は国のゴールがわからなくなってしまったことだと思います。日本は戦後、経済大国となりましたが、その成功が逆に「ゴールの欠如」という課題を生んでいるのです。アメリカについても同じことがいえます。トランプ大統領のもとでこの国はどこへ向かおうとしているのか。誰にもわかりません。

佐藤 日本の若者は内向き志向だと言われますが、明治の国際的なリーダーから何を学べばよいでしょうか。

クレイグ 木戸孝允、大久保利通、伊藤博文、福沢諭吉といった明治のリーダーは、「西洋と日本とのギャップ」に直面し、そのギャップをうめていこうと必死に努力しました。つまり彼らには明確な目標があったのです。

 現代の日本に、明確な目標はありません。日本はすでに「西洋には良い部分と悪い部分があり、西洋から全部を学ぶ必要はない」ということを知っていますし、日本が西洋より優れている部分もたくさんありますから、「西洋に追いつけ」というのはもはや意味がありません。

 日本は引き続き科学技術、経済、教育に力をいれていくべきだ、というのは簡単ですが、国としてどの方向をめざすのか、誰もわかっていないところが問題だと思います。日本はすでに西洋よりも進んだ文明国になったともいえますから、多くの課題を解決していく実験場となっていくのでしょう。

アルバート・クレイグ(Albert M. Craig)
ハーバード大学名誉教授。専門は日本史(近代史)。アメリカにおける日本史研究の第一人者。1959年よりハーバード大学で日本史の研究と教育に携わる。エドウィン・O・ライシャワー日本研究所所長、ハーバード・燕京研究所所長を歴任。明治維新、幕末期における長州藩の役割などを専門に研究。主な著書に「日本の歴史と個性」(共著、ミネルヴァ書房)、「文明と啓蒙 初期福澤諭吉の思想」(慶應義塾大学出版会)。
佐藤智恵(さとう・ちえ)
1970年兵庫県生まれ。1992年東京大学教養学部卒業後、NHK入局。報道番組や音楽番組のディレクターとして7年間勤務した後、2000年退局。 2001年米コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。ボストンコンサルティンググループ、外資系テレビ局などを経て、2012年、作家/コンサルタントとして独立。コロンビア大学経営大学院入学面接官、TBSテレビ番組審議会委員、日本ユニシス株式会社社外取締役。主な著者に『世界のエリートの「失敗力」』(PHPビジネス新書)、『ハーバードでいちばん人気の国・日本』(PHP新書)、『スタンフォードでいちばん人気の授業』(幻冬舎)、最新刊は『ハーバード日本史教室』。佐藤智恵オフィシャルサイトはこちら