鰹の旬は年に二度あります。

 一度目は、言わずと知れた晩春。 

 江戸時代の俳人、山口素堂(1642~1716)の有名な俳句、

『目には青葉 山郭公《うやまほととぎす》 初松魚《はつがつお》』

にあるように、青葉がまぶしく、ほととぎすが鳴き始める季節が一度目の旬です。

 南の海で生まれ、2年ほど過ごした鰹は、1月ごろから黒潮に乗って日本の太平洋岸を北上します。

 3月には九州に到達し、高知沖を通って4月に駿河湾沖、5月に相模湾沖で獲れるのが、江戸っ子が熱狂した「初鰹」です。

 二度目の旬は秋。

 ちょうど今の時期、北の海でたくさん餌を食べた鰹が、水温の低下とともに脂をたっぷり乗せて南下してきます。

 これが「戻り鰹」で、最近では「トロ鰹」という名称で売られることが多いようです。

 さっぱりと香り高い「初鰹」と、濃厚でとろける「戻り鰹」。

 鮪の大トロなど、魚の脂質を好む現代人は「戻り鰹」の方に軍配を上げがちですが、「戻り鰹」が高く評価されるようになったのは、ごく最近のことです。

かつおのたたき漬け
【材料】かつお(皮なし刺身用)…1さく/酒…大さじ3/しょうゆ…適量/練りからし…適量
【作り方】①かつおはざるか網に乗せて全体に熱湯をかけて霜降りにする。湯切り後、ポリ袋に入れて酒を注ぎ、冷蔵庫で冷やす。②暑さ9mm程度に切り、練りからしとしょうゆを添える。

 私の個人的な記憶によると、そもそも「戻り鰹」という言葉を初めて知ったのは、バブルの最中でした。

 人々が飽食に明け暮れる中、グルメを自称する会社の先輩から、「鰹が本当に美味しいのは、秋の戻り鰹だよ」と聞いたのが最初で、実際その頃の「戻り鰹」は「関サバ」や「関アジ」と同じくブランド魚扱いで、店で注文すると、結構いい値段がしたように思います。

 よほど珍しいものかと思っていたら、後に、江戸時代は「猫またぎ(猫も見向きもしない下魚)」の一種だと知ってがっかり(笑)。