もう少し、デザインシンキングの具体的な例をあげてみよう。

 IBMは、航空会社の社員が空港で利用するキオスク端末を開発した際のことだ。まず、デザイナーが空港に出向き、その使用状況を確認した。デザイナーが観察してわかったのは、従来のキオスク端末の機能にはそれほど問題はないが、課題は、この端末を持ってゲート間を移動するときに、電源を抜かなければならず、それが低い位置にあるために、タイトなスカートを履いている女性スタッフが移動させにくいという点だった。

「プロジェクトを開始する段階で、顧客の隠れたニーズを知り、状況を理解し、それを共有することが重要。現場の人の動きを見て、隠れたニーズを見つけると、プロジェクトそのものの方向性を変えることにつながる」と、ギルバート氏は語る。製品デザインにこの考えたを取り入れた端末開発が進められたのだ。

 IBMデザインでは、プロジェクトの初期段階から、実際に利用するユーザーをチームのメンバーに巻き込むこともある。これも、発注者からは見えないニーズを取り込むためだ。「プロジェクトの推進中している途中で、利用者の意見を聞くこともあるが、それでは、プロジェクトが進行しすぎて、手遅れになる場合もある。初期段階でニーズを洗い出すことが必要だ」とする。

 また、こんな事例もあった。

 ソフトウェアをアップグレードする際に、ユーザーがワンクリックで作業を行え、利便性を優先したいというニーズがあった。だが、実際に配信を行ったり、サポートするスタッフに聞くと、「ユーザーがワンクリックで簡単に行える」というニーズよりも「顧客に対して、アップデートの必要性を示すこと」「アップデートの際に起こるリスクを知らせること」「システムをリブートしなくてはならないことを通達すること」などを重視していることが、デザイナーによるヒアリングでわかった。つまり、確実にアップグレードをしてもらうためには、「ワンクリック」よりも別の要素が現場では課題となっていたのだ。

 これを反映し、従来とは異なるアプローチを行った結果、アップデート時には、従来に比べて、10~20倍の顧客が新たな製品を買いたいという声があがり、評価指標の増加、収益の拡大につなげることができたという。

 顧客との協業によって、成果を生むというスキームがデザインシンキングによって生まれている実例である。