NHNの社長として、ゲーム事業の成長とLINEの立ち上げに経営手腕を奮ってこられた森川亮さん。2015年にはC CHANNELを立ち上げ、新たにゼロからの事業に取り組んでいらっしゃいます。異なるステージの会社で豊富な実績を積まれている森川さんに、経営の考え方について今日から3回に分けて伺っていきます。聞き手は、株式公開後も精力的に発展を目指す“ポストIPO・スタートアップ”を応援するシニフィアン共同代表で、元ミクシィ社長としても知られる朝倉祐介さんです。(ライター:石村研二)

すでにある事業と、ゼロから立ち上げる事業の違い

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):森川さんは、日本テレビから、ソニー、ハンゲーム(後のNHN。現LINE)、そして現在のC CHANNELと、小さいところから大きいところまで様々な規模の会社を経験されていますよね。経営者としても、ある程度組織が整った会社の舵取りを途中から担われたり、C CHANNELのように完全にゼロから立ち上げたり、色々な局面を経験されています。それぞれの局面で直面する難しさの違いを教えていただけますか?

LINEとC CHANNEL。ゼロから事業を立ち上げる難しさ  【森川亮さんに聞く Vol.1】森川亮(もりかわ あきら) C CHANNEL株式会社 代表取締役社長。神奈川県出身。1989年筑波大学卒業。 日本テレビ、ソニーを経て2003年ハンゲームジャパン(後のNHN Japan。現LINE)に入社し07年には代表取役社長に就任。2015年3月、同社代表取締役社長を退任し、C CHANNEL株式会社を設立。

森川亮氏(C CHANNEL株式会社代表取締役社長。以下、森川):ソニー時代にジョイント・ベンチャーを立ち上げたのが最初のゼロから事業を立ち上げた経験です。C CHANNELもそうですね。逆に前職(ハンゲームジャパン。現LINE)には途中から加わる形になりました。難しさの違いということで言うと、ビジネスの状況の違いが大きいと思います。つまり、C CHANNELのようにビジネスモデルとして成り立つのか成り立たないのかわからない状況と、ある程度ビジネスモデルが出来上がっていて、それをどう展開させていくのかという状況で大きく違ってくるということです。

 たとえばゲームというビジネスモデルなら、売上がゼロでもビジネスモデルが成り立つことはわかっているので、まず面白いゲームを作って、それからマーケティングしていけばいい、と考えられるわけです。でも、今回のC CHANNELのような場合には、そもそもこれが事業として成り立つのかどうかが明確ではないので、社員を説得する上で難しい部分はありました。
 その意味では、ビジネスの状況によって選ぶメンバーに違いが出てくるのかもしれません。すでにあるものに関しては、賢く競合との差別化要素やそこにおける価値のようなものを深掘りできる人材が必要になるんですが、まったくゼロから始めるときには、言い方は悪いですけど、ある程度バカじゃないと思い切って取り組めません。

朝倉:多少の楽観さがないと、やっていけないということですね。

森川:そうですね。信じたらついていくとか、決めたら突っ走るみたいな人ですかね。あとは、株主との距離感のとり方も違います。ゼロからの場合、付き合い方を誤ると、VCなどに振り回されてしまうこともあります。そこの距離感をしっかり考えていく必要はありますね。

朝倉:森川さんの入社後、ハンゲーム(現LINE)は3年で売上が2億から80億くらいまで急成長したということですが、その過程で生まれた変化や課題はありましたか?

森川:一般的にそうだと思うんですが、最初の成長というのはあるビジネスモデルが当たって、そのグロースで伸びていくわけです。ですが、3年くらい経つとそれが枯れてきてしまうんです。その時に、変えるべきだというメンバーと変えなくていいというメンバーの間で、確執が生まれるということはありますね。

朝倉:事業を変えるか変えないかという議論は、ある種の神学論争になってしまいがちですね。

森川:たとえばハンゲームの場合で言うと、最初はカジュアルゲームで当たったんですが、そこに家庭用ゲーム機の開発者が入ってきて「あんなものはゲームじゃない、もっとゲームらしいゲームを作るべきだ」と主張しました。ユーザー数が多いのはカジュアルゲームなのでそれを続けるべきという考えと、それとは違うゲームを作って変化を生み出すべき、という考えの間で議論にはなりましたね。

朝倉:そういう時の判断のポイントとしては、どのようなことを重視してらっしゃいますか?

森川:当時は上場を目指していたので、上場前にあまり新しいことをやって失敗するよりは、既存事業で利益率を高めてグロースするところに集中しようという決定をしたんです。でもその分、新しいものに出遅れたところがやはりあったので、あとあと反省することにはなりました。